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熊と遭遇したという場で、唯一考えが明後日の方へ向いていたAだったが、やっと助け船を出す気になったらしい。
彼女は二ヵ所に別れている不良たちの視界へなるべく入らないように、梅原の右斜め後ろへ僅かに移動。左手で持っている松茸の入った籠を胸に抱え、梅原の右手首を空いている右手で掴む。他のやつらに、梅原が自分自身を庇っているよう見せるため正面へ腕を伸ばさせた。顔をAへと向けようとした梅原に
『前だけ見て。熊から視線を逸らすな。何を感じても表情を変えるな』
とAは小さく呟く。それを聞いた梅原は小さく頷き、外しかけた視線を改めて熊へと向けた瞬間──バササッ!と一斉に、近くの木の枝で羽休めをしていた鳥たちが飛び上がった。
「っ!?」
この場にいる全員が同じものを感じ取る。喉元や心臓、頭部といった急所に、冷たく鋭利な刃を突き付けられているような殺気。少しでも動けば刺し殺されるのではないかと。
脂汗を吹き出しながら恐怖に怯えた表情の者。動いてはいけないと、体を震わせ立っているのがやっとの者。息をするのも忘れ顔面蒼白の者と様々だ。
ミケブチは完全に戦意喪失。先程まで毛を逆立てさせながら威嚇をしていたが、今ではピンッ!と伸びていた尻尾や耳は力なくへたっている。そしてその場に身を寄せ合うように踞った。
以前、小さい小枝を喉元に突き付けられたことがある梅原だが、その時の比ではない程の冷たく鋭い空気を感じている。すぐ真後ろから飛んで来る殺気に体が震えそうだ。それに耐えるため、奥歯を噛み締め、爪が手の平に刺さるほど拳を握りながら熊を睨み続ける。
ただ梅原やミケブチ、不良たちの感じている殺気は余波に過ぎない。Aが殺気を向けている相手は熊だ。
彼女の殺気を一身に受けた熊。先程まで目に宿っていた目の前に居る者たちへの興味は完全に失せ、今はもう彼女の殺気に怯えたような色へと変わっている。その変化に気付いたAは、視線を熊が出てきた森へと移動させて元に戻した。それを見た熊は、二足で立ち上がっていた前足を地につけて四足へ。それでも梅原の胸元位の位置に熊の頭部があるが、戦意がないということで彼女は殺気を仕舞った。
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雪丗(プロフ) - kangarooさん» そうです(^^)その理解で大丈夫です! (6月1日 0時) (レス) id: 3aa07c1458 (このIDを非表示/違反報告)
kangaroo(プロフ) - 雪丗さん» お返事ありがとうございます!!夢主ちゃんが目をつけた黒いバイクはSegreto用に梅ちゃんが乗っている、という理解で大丈夫でしょうか .. ?何度もスミマセン(汗) (5月31日 21時) (レス) @page44 id: a52eba175e (このIDを非表示/違反報告)
雪丗(プロフ) - kangarooさん» ご質問頂いた梅ちゃんのバイクの件ですが、崖から落ちて爆発したことで廃車→片山(モブ)さんの厚意で新車をゲットしました!サイドカーに関しては、神谷が後払いにて購入→ミケブチに奪取される。という流れになります。また不明点等ありましたら御連絡ください(^^) (5月31日 17時) (レス) id: 3aa07c1458 (このIDを非表示/違反報告)
雪丗(プロフ) - kangarooさん» お返事が遅くなり申し訳ありません。今作品をお読み頂きありがとうございます。梅ちゃんファンが増えて口角が緩んでます。によによです(笑) (5月31日 17時) (レス) id: 3aa07c1458 (このIDを非表示/違反報告)
kangaroo(プロフ) - 嬉しいです!ちなみに私も梅ちゃん大好きです。数少ないツッコミ役ですね。お疲れさまです、合掌。 (5月22日 21時) (レス) id: a52eba175e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雪丗 | 作成日時:2019年8月22日 12時