継いで②【オリジナル】 (ページ2)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:1,514 hit

49 ページ2

ゼオンside

俺の「未熟」という言葉で、ほんの僅かだが悔しげに眉を寄せるA。認めているのだろう。口を閉ざして反論はなかった。

だが内心では不機嫌だろうことがわかる。尾は正直だ。地面を叩く素振りを眺めていれば、俺の視線を追うようにAは顔を向けた。

寄せていた眉は下がり、力強く立っていた耳は先の方が力無くへたる。その様子を見れば

(正直なのは尾だけではないな)

という思いが頭に浮かぶ。

自身の尾を胸に抱え、顔を埋めてしまったA。尾や耳が正直なのは俺のせいではないのだが、どうやら拗ねたらしい。

しばらく様子を伺っていたが、顔を上げる気配がない。なので呼び掛けてみる。

「A」
『……はい』

小さく返事は戻ってきたが顔を上げない。尾は抱えていて動くことはないし、耳も頭にへばり付けているため感情を読み取ることは不可能。小さく息を吐き、仕方なしに機嫌を取ることにする。

「……少し出てくる。お前はここから出るな」
『はい……』

その返事が耳に入れば、俺は足を踏み出した。

──巫女一族の里を抜け出し、森の中を歩きながら何を用意するかと頭を捻る。

(……ふむ。女子供の喜ぶもの……。先日花を渡したからな。同じものというのも……)

俺は長く生きているが、物を贈るということをあまりしたことがない。あまり……ではないな。片手で数えられるくらいしか無い。なので贈るものが思い付かず、逆に贈られてきたものを思い出すことにしてみる。

(酒や肉を贈られたことがあったな。あとは穀物に、女を贈られたこともあったか……)

昔の記憶を思い出してみたが、まったく参考にならんことがわかった。どれもこれもAに贈る物ではないと。

(ここしばらく……まともに他の者と接していなかったからな)

一人で闇をさ迷いながら過ごしていた時間が長かったように思える。実際に、どれだけの時間を過ごしていたのかはわからないが。

(……あれの光は暖かく感じた。そのお陰で久しぶりに目を覚ましたのだから)

後ろから流れてくる力の奔流を感じ取り、立ち止まって振り向く。その暖かさは森の中を隅々まで包んでいくような浄化の力を。

(……それでも魔獣は消えんのだが……)

里から出れば魔獣共はそこかしこにいる。新しいものが生まれることは防げるかもしれないが、古いものには効果は薄い。

目の前に数匹現れたトレントを刻んで足を進める。とりあえず人里にでも行って考えようと。