ep.28 ページ30
翌日＿＿＿＿午後11時＿＿＿＿
Aは鷹見の部屋の前まで来ていた。
結局来てしまった。
昨日の心の整理がつかぬまま、言われた通りに来た。
しかし、鷹見が帰ってくるのは午後11時辺り。
今朝、仕事に行く姿を見たからと思い、この時間に来た。
ピンポン
と、チャイムを鳴らすとインターフォンで応答せずに、
｢いらっしゃい。Aさん。上がって上がって。｣
そのまま玄関のドアに来た。
だがAにそこを驚いている余裕はない。
足取りが重いなか、鷹見の部屋に入っていった。
入ってからは普通に二人がけのソファに座らされた。
隣に鷹見も座り、Aは何されるのかと思ったら、
｢Aさんもしかして、俺、仕事なのわかっててこの時間に来たの？嬉し。｣
｢Aさん髪サラサラだね。その髪型も好き。｣
｢Aさんの手、なんか冷たいね。俺があっためてあげる。｣
と。
一方的に鷹見がずっと話している。
時には、髪を弄んだり、手を握ってきたりしている。
そんな鷹見に、Aは何も言えなかったし、出来なかった。
されるがまま、という感じだ。
Aさん、と呼ばれ鷹見の方を向くと、キスをされた。
それにも為す術もなく、されるがままだった。
｢Aさん、可愛いな。綺麗。｣
『……』
｢あー、もうこんな時間だもんね。疲れてるよね。
じゃあ、ここで寝よっか。｣
『……鷹見さん。』
｢大丈夫。明日の朝にはまた自室に帰すからさ。｣
『鷹見さん。』
｢なーに？Aさん。｣
『……貴方は、悲しいの？寂しいの？
私に何を求めているの？
どうして、そんな悲しい目をしているの？
……壊れちゃいそうなの？』
｢……。Aさん。
俺さ、気づいちゃった。
俺、Aさんが居ないとダメだ。
隣にいてくれないと。
こうして触って感じてないとおかしくなりそう。
必要な存在だと気づいたよ。｣
『……え、』
｢ずっとずっとそばにいて欲しいって思う。本当に。
俺、Aさんがいないとそれこそ壊れちゃうかも。｣
心優しい人を陥れる罠。
誰かに縋りたいと思っている人を、放っておけない人が掛かってしまう蜘蛛の巣。
そこに掛かるのは、Aも、例外ではない。
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作者名：飛べぬひじき | 作成日時：2020年2月18日 20時
