傷跡 (ページ22)

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岸side

海人のせいってどういうことだ？

確かに海人の母親は亡くなってしまったけど

それは父親が悪いだけで

海人は1ミリも悪くない

むしろ被害者だ

海「前の日にお母さんに言われたんだ。明日どこか遠いところ行こうって」

岸「遠いところ？」

海「うん。もうここから逃げようって。明日からは痛いのなくなるからねって…そう言ってくれたんだ」

それは俺が初めて聞く話だった

きっと海人しか知らない話

海「俺、嬉しくて…やっとここから抜け出せる、もう痛い思いしなくて済むんだって」

その頃の海人にとってその言葉は

本当に救いだったんだろうな

殴られて暴言吐かれて

それが1年以上も続いて

本当によく耐えた思う

海「はしゃいで走り回ってたら置いてあったお酒に手があたって倒しちゃったんだよね」

テーブルの上に置いてある海人の手が

ぎゅっと強く握りしめられている

海「ちょうどその時あの人が帰ってきて、そのお酒に気づいた瞬間殴りかかってきた」

岸「…」

海「しばらく殴り続けてどこか行ったんだ…気が済んだんだって思ったら急にお母さんに抱きしめられた」

海人の話を黙って聞くことしか出来なかった

なんて言えばいいのか分からない

俺には一生海人の痛みなんて分からない

海「今でも覚えてる。グサッていう音だけが何回も聞こえて…何も出来なかった」

海人のこんな顔を見たのは初めてだった

いつだってニコニコしてて

明るい海人しか見たことなかった

海「俺があの時お酒を倒さなかったら、お母さんを守れるくらい大きかったら、お母さんは死なずに済んだんだろうなって今でも思う」

岸「海人…」

海「俺のせいでお母さんは死んだんだって」

岸「…」

5歳の時に目の前で母親が殺されて

それからずっとその原因は自分だって思いながら生きてきたのかよ

そんなの海人のせいじゃないだろっ…

海「しかも自分の中にあの人の血が流れてるって思うだけで気持ち悪い」

住む場所や関わる人はどうにかできる

でも血の繋がりはどうにもできない

岸「えっと、なんて言えばいいのか分かんねーけどさ…」

海「ふふっ、そうだよね…」

岸「でも俺は海人に生きてて欲しいって思うよ」

そう言うと海人は一瞬目を見開いて

柔らかく笑った

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