オレンジの世界。

ノート貸して2 ページ22

う、嘘…

今まで生きてきた人生の中で

いちばん大きく心臓の音が聞こえる

あまりに大きくて

横尾くんに聞こえてるんじゃないかなって

不安になる

でも目の前の横尾くんは

なにも気にせず

ただ広げられた私のノート見てる

緊張で手が震える

絶対バレちゃう

「っあ、あの横尾くん…」

「…ん？」

思い切って手を止めて

横尾くんの顔を正面から初めてちゃんと見た

そしたら下がってた目線が上向いて

目が合って

言葉は上手く出てこなくて

「…鍵、返しとくから

いいよ、藤ヶ谷くんとこ行って？」

「…ごめ、もう1回」

自分でもびっくりするくらい

噛んで小さい声で

聞こえるはずないよね…

「鍵、返しとくよ？」

「…いいって」

うぅ、横尾くんって意地悪なのかな…

前に他のクラスの宮田くんに

イタズラしてた

宮田ぁっ！て呼んで肩叩いて

ほっぺツンって定番のやつ

宮田くんは

「も〜っ、」

て苦笑いしてた

そんな宮田くんを見て

キャハッて楽しそうに笑って

宮田くんに一方的に話しかけてた

私、絶対赤くなってるのに…

気づいててそこにいるの？

私は諦めて早くノート書き直してしまおうと

必死に意識背けて無言でペン走らせる

横尾くんは飽きもせずにノートに

真剣に視線向けてくる

「(人2)さんの字、綺麗だよね

俺なんか下手くそ(笑)」

…そんなことないよ、可愛らしい字だよ

「わ、私…横尾くんの字、好きだよ？」

「ん？」

「あっ、ううん、何でもない…」

な、何言ってるんだろう私…

初めて声が小さくて良かったと思った

「いつもノートありがとうね

助かってるよ」

あ、藤ヶ谷くんといる時みたいな表情

藤ヶ谷くんといる時は、いつも楽しそうで

無言で居る時からは想像出来ないくらいの

無邪気な顔して笑うから

私が横尾くんを好きな理由の1つだ

初めて向けられたそれに赤くなる

「う、ううん

自分のためにやってるだけだから」

元々ノート取るのは好きだったけど

休み時間がなくなるほど

こんな丁寧に取ることも

上手なとり方調べることも

しなかったと思う

ただ横尾くんのためにやってる

『…わた！』

二人して突然の音にビックリして

音の主の方を向く

「…あ、ふ、藤ヶ谷くん…」

「…太輔、ビックリさせんなよ」

『あぁ、ごめんって。わた、なかなか

来ないからさ。１回職員室いって

聞いたら鍵まだだって言われてさ

戻ってきた』

さっきまで息切れしてたのに

早口で言うと

爽やかに笑ってみせた

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