オレンジの世界。

水族館デート ページ19

「…わた！」

『…A』

駅で待ち合わせ。

携帯と睨めっこしていた彼

ちらっとこっちに目をやると

携帯を閉じる。

ジーッと見つめられて

コクっと頷くと

行こうか、って。

わたはデートの行き先に応じた格好してるか

いつもこうやって確かめる。

前に無理に高いヒール履いていって

靴ズレして

何やってんだよ

仕方ねぇなって

ムスッとしながらも絆創膏貼ってくれた

何だかんだ優しいよね。

『なにニヤけてんの？』

眉間にしわ寄せて覗いてくる

「何でもない」

気づいたら切符買ってくれてて

ん、って渡される

ありがとうって言いつつ

小さな心遣いにもキュンっとして

それをぎゅっと大切に落とさないように

受け取った。

スタスタと改札通って

のりばまで向かう彼に

早足でついていく。

あれ？

カド曲がったら分かれ道になってる

どっちだろう？

キョロキョロと首振ってたら

見つけた

こっち見て待っててくれてる

急いで駆け寄ると

フッと笑ってさっきよりも

ゆっくり歩いてくれる

電車は混んでいて座れそうもない。

あ、どうしよう…届かない。

ヒールじゃないから吊革に届かない

迷子だったのを助けるようにして

手を掴まれると

服の裾を掴まさせる。

ふいにグラッと身体が揺れて

ぎゅっと握しめたら

背中にてをのばして支えてくれる

ふいにわたの香りがして

見上げると口元が片側だけあがってる。

その近い距離に胸は高鳴って

同時にわたの鼓動も聞こえた。

しばらくそのままでいると、

大きな駅で数人が降りて

はしっこ一つだけ席があく

『…座れば？』

離れるのが惜しかったけど

しかたなく離れる。

…………

「えっ、なにこれ？！」

『うわっ、え、アナゴ？』

「すごーい」

来たのは鳥羽水族館。

時間たっぷりあるから

順々にゆっくり回ることにした。

小さい筒の中にはいって

こっちを覗いてるアナゴたちに

びっくりして楽しそうなわた

『木かなんか入ってるんだと思った〜』

さっきまでの無口は何処へやら

無邪気な少年みたいに笑う

その笑顔に思わずパシャリ

『なんだよ〜撮るなよ(笑)』

「いいじゃん、楽しそうだし。思い出！」

『ダメ、消して』

「嫌だよ〜」

口を尖らせると諦めたのか

他の水槽に目をやる。

カピバラやイセエビ、

珍しいマナフィーやジュゴン。

子どもに戻ったみたい

いつか見せてもらった

小さい頃の写真と被る

『そろそろショーの時間だね』

"続く"

帝王と私→←彼は吸血鬼…？

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す