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「有岡くんっ…!」
何度メッセージを送っても、電話をかけても有岡の反応はない。大学内を必死に探していると、やっと有岡の姿を見つけることができた。
伊野尾の声に一瞬振り向いたが、有岡はすぐに背を向け走り出す。
「待って…!なんで逃げるのっ…!?」
有岡は無言でひたすら走り続ける。伊野尾は息を切らしながらも、必死にその背中を追いかけた。
「まっ、てよっ……有岡くんっ…!!」
やっとの思いで伊野尾が有岡の腕を取り、動きを制止させる。
"…まただ。また、有岡くんの顔が見えない…"
有岡の腕を握る伊野尾の手に力が篭もる。
「ねぇ、なんであいつと別れたの…?」
「…」
「…俺の、せい?」
「…違うよ。俺が悪いんだ」
「…どういうこと?ねえ、有岡くんってば…!」
伊野尾は痺れを切らして有岡の顔を除きこみ、目を丸くした。有岡の眉間にはシワがより、目を細め、唇を噛み締めて苦痛の表情をしていたから。
「ごめん……俺が、全部、悪いから…」
「有岡くん…?」
「…好きな人がいるのに……好きな人に近づくために、あの子と付き合って、好きな人には最低なことばっかして……もう、嫌われたに決まってる…っ、」
"…有岡くんは、何を言ってるの?
なんで、そんなに悲しそうな顔するの…?"
「…有岡くんの、好きな人って…」
「…ここまで言ってまだ分かんない?」
顔を上げた有岡の瞳からは、涙が一筋零れていた。
「伊野尾くんだよ。
…伊野尾くんのこと、ずっと前から好きだった」
初めて見る有岡の涙に、伊野尾の心が揺らいだ。
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作者名:むにこめ | 作成日時:2022年11月28日 22時