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多少のトラブルもありつつ、無事に有岡の家に着いた二人は、映画を観たり、ご飯を食べたりとまったりとした時間を過ごした。
あっという間に時刻は夜の10時過ぎ。
伊野尾の後にシャワーを終えた有岡は、ソファに座る彼の隣へ腰掛け、思い出したように問い掛ける。
「そういえば、コンビニで何買ってたの?」
「ん?これ」
伊野尾が袋から取り出したのは、ビターチョコレートのお菓子。
「ビターが好きなんだ?」
「うん、甘いの苦手で」
有岡はそれを聞いて、以前元カノの部屋にあった、溶けたまま中々減らないビターチョコレートが入っていた箱を思い出した。
"あー…あれは勿体ないから俺が食べたんだっけ。
…そういえばあの子、全部伊野尾くんの趣味に合わせてたって言ってたな…自分に嘘つくのが苦しくて別れたいとかなんとか…"
「ねえ、有岡くんも一緒に食べよ?」
"あの子も苦しかっただろうけど、それに気付かず振られた伊野尾くんも相当辛かっただろうな。
…引き金を引いたのは、俺自身なんだけど…"
「…ごめんね」
「ん?何が?」
「…なんでもない!チョコ1つちょうだい」
"…俺のせいで、今までたくさん傷つけた。
たくさん泣かせたし、嘘もついた。
…だけど、これからは…"
「…有岡くん?」
「…俺は好きだよ、ビターチョコレート」
「え?んっ…」
有岡がキスをすると同時に、伊野尾の口内へと運ばれるチョコレート。それはゆっくりと溶けて、じわじわとお互いの喉の奥へと広がってゆく。
"…俺は、もう伊野尾くんにも、自分自身にも嘘なんてつかないよ "
「…ふふ」
「…なに?」
「甘いね」
「…そう?」
「うん…有岡くんだからかな」
ちゅ、と小さく音を立て、今度は伊野尾から触れるだけのキスをする。
「甘いのは苦手だけど…有岡くんは好き」
「…!」
想い人からの初めての"好き"という言葉に、不意にも視界が滲む有岡。伊野尾を思いっきり抱きしめて、気付かれないようにそっと涙を拭った。
「…ねえ、有岡くんは、ずっと一緒にいてくれる?」
お互いの顔が見えない中、少し不安そうな伊野尾の声を聞いて、有岡の胸がきゅっと締め付けられる。
"…俺らの関係は、もしかしたら周りからするとイビツに見えるかもしれない。
それでも俺は、俺を救ってくれた君と、一生共に歩んで行きたい。
…やっと手に入れたんだ。絶対、離してあげないから…"
「大丈夫。俺がずっと、伊野尾くんのそばにいるよ」
「…うん。約束だよ、有岡くん」
"ずっと、離さないでね"
有岡の腕の中で、伊野尾は幸せを噛み締め小さく微笑んだ。
イビツ。 ...end.
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作者名:むにこめ | 作成日時:2022年11月28日 22時