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それでも近づくものなので、Aは上半身ごと退けぞる。冨岡は離れていく相手の顔を追いかけるように、上半身を倒す。すると、丁度西洋のペアダンスのような体勢になってしまった。
何時の間にかいわゆる恋人繋ぎになっていたAの左手は高く上げられ、上半身を倒すことで踏ん張れなくなった左脚は宙に浮いた。冨岡の腕力、そしてAの体感あってこその体勢だ。
もしその道に精通している者がいたならば、「素晴らしい!」と言うかもしれないほど、綺麗な静止体勢。しかし、双方の表情はとてもじゃないが、舞踏に興じているようには見えない。
「何故逃げるんだ、A」
「離して!」
「断る。俺の前から居なくなるのだろう?」
それに心の中で「当たり前でしょ!」と叫びながら、Aはどうにかこの状況を打開出来ないものかと、辺りに視線を巡らせた。
それを見て冨岡は面白くなさそうに眉をしかめると、そのまま体勢を倒していき、遂にはAを畳に押し倒した。優しくゆっくりとした動作だったため、Aに痛みは一切ない。
だが、両手を頭の横にそれぞれ固定されたAは、抵抗できない恐怖を感じざるを得ない。怯えた目で冨岡を見上げるが、縁側から差し込む日差しにより影になって、その表情は読めなかった。そのことがより恐怖を助長する。
Aとて、天然で抜けているところはあるが、別に世を知らない訳ではない。男女が部屋に二人っきりで、尚且つそこに暴走した恋愛感情があるというなら、その後どうなるのか想像が付かない訳ではなかった。
「A…」
熱を含んだ声が、Aの鼓膜に響く。それに体を震わせながらも、少女は覆い重なってくる青年を見つめる。恐怖とは違う感情が胸を占めていることを知らないふりして、Aは冨岡に冷たい言葉で告げる。
「やめてください、冨岡さん」
きっぱりとした否定に、冨岡は悲しそうに瞳を揺らした。その素直な反応に、Aは青年の行動は血鬼術によるものだと、改めて認識させられる。彼女の知る青年は分かりにくい感情表現をするのだから。こんなに素直に感情を表に出す冨岡を、Aは知らない。
「どうしてだ?俺じゃ駄目なのか?」
「…」
「こんなに愛していても駄目か…?」
許しを乞うように弱々しいその嘆願に、Aは泣きたくなってしまった。それは大切な仲間への罪悪感からだ。自分の不注意のせいで、仲間達が最早彼等ではない愛に狂った誰かになってしまっている。
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もみじ - めちゃめちゃ面白かったです!! (2022年8月1日 19時) (レス) @page30 id: 32f65dbc25 (このIDを非表示/違反報告)
ハッシュタグ(プロフ) - ななしさん» お読みいただきありがとうございます。今でも反応をいただいており、私としてもお気に入りの作品ですので、そう言っていただけて嬉しい限りです。もしまた機会があれば、読んでいただけましたら幸いです。 (2022年4月9日 0時) (レス) id: bcf3124c84 (このIDを非表示/違反報告)
ななし - 面白くて一気読みしました!語彙力が凄くて羨ましいです...!シチュエーションも神でした!これからも応援しています!! (2022年4月2日 17時) (レス) id: 05cc864757 (このIDを非表示/違反報告)
ハッシュタグ(プロフ) - 水城舞梨亜さん» 喜んでいただけて良かったです!リクエスト本当にありがとうございました…! (2020年10月22日 11時) (レス) id: bcf3124c84 (このIDを非表示/違反報告)
水城舞梨亜(プロフ) - いいいい伊黒さんかっこいい!!!です!\(^o^)/伊黒さんは、私の推しなんですが、こんなにかっこよく書いていただけて嬉しいです!!(*´ω`*)後、夢主ちゃんがかわそう…でもなんかすごいです!(語彙力)感情が無いようであって。凄く、本人にあってると思います! (2020年10月22日 8時) (レス) id: 0e4689ecab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ハッシュタグ | 作成日時:2019年11月30日 19時