五十三話 ページ9
部屋の隅に設置された固定電話が鳴った。
滅多に使われる事のないそれは、静かな部屋の中でけたたましく叫んでいる。それが鳴るのはある程度限定された状態でしかない。というのも、仕事関係の電話は全て緑谷の携帯にかかる。セールスの電話もない。たまに、印子から電話があったが、大抵、それが鳴るのは病院からだった。
それを聞くたび、心臓が大きく跳ね、受話器に伸びる手が止まる。３コール目で受話器を取った。
「……はい、緑谷です」
「爆豪さんですか？ 今、緑谷さんが搬送されてきました。とても危ない状態です。すぐにいらしてください」
あまりにも出久が病院に運び込まれるので、病院側には出久の家でAがシェアハウスをしているということは周知の事実だった。背後では医師や看護師の声が飛び交っている。
「分かりました。すぐに、向かいます」
受話器を置き、すぐにコートを引っかけて家を飛び出す。家から病院までは遠い。車で片道３０分だ。職場までは片道徒歩で数分だというのに、なぜ病院はこれ程までに遠いのだろうか。職場だけでは無く病院に近いところに部屋を借りればいいんだ。そう考えたのがおよそ１か月ほど前。あれから２回、病院から連絡があった。その度にこんな思いをするのはごめんだった。
部屋を飛び出し、エレベーターで一階まで下りてタクシーを拾う。
「東央大学病院まで」
運転手が口を開く間も与えず、Aは行き先を伝える。あまりにも切迫した雰囲気に押され、運転手も早々にアクセルを踏んだ。車が走り出して、いったい何事なのだろうか、とバックミラーを覗いた運転手はすぐにその人物が爆心地であるという事に気が付いた。シャンパンカラーの髪は伸び、雰囲気はどこか変わったといえども、顔は見紛うことのないあの爆心地だ。半年前の痛ましい事件から一度も公の場に姿を現していない爆心地は、顔を紙のように蒼白にしているため、話しかけるのは憚れた。しかし、理由は案外簡単に導き出せる。デクがまた病院に運ばれたのだ。休み時間に覗いたニュースで、敵と交戦していたデクが病院に搬送される程の痛手を負った事を思い出す。不仲説が囁かれていた二人だったが、落ち着きなくそわそわ車窓を覗くAはその噂がまったく真実ではないように思えた。
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サキエル(プロフ) - 黒酢さん» コメントありがとうございます。神作と言っていただけて、とても嬉しいです！ 正直私の技量では表しきれなかった部分があったのですが、黒酢さんにその欠片だけでも伝わっていたら幸いです。 (2020年11月8日 23時) (
レス) id: 3c96a8f4ce (このIDを非表示/違反報告)
黒酢 - 緑谷君のヤンデレ夢小説少ないからむっちゃ嬉しいです!こんな神作品に出会えてよかったです!! (2020年11月5日 16時) (レス) id: 3b4652fe38 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：サキエル | 作成日時：2020年5月1日 0時
