四十八話 ページ4
あの後、出久はごめんと一言呟くと、そのままふらふらと立ち上がり、ジャケットをひっかけて家を出て行った。Aは出久を追いかけることができず、同じようにふらふらと立ち上がったかと思うと、ベッドに倒れこんで、また泥の様に眠った。
翌朝、目が覚めリビングに向かうと、机の上に朝食と昨日はごめん、頭冷やしてくる。という書置きが残されていた。Aは銀色の手でその文字をなぞる。あの日燃やしたノートに書いてあった字と
同じ筆跡だ。
「……何も変わってねえじゃねえか」
あの時からデクは何も変わってはいなかった。あの日のまま、あの教室にいたデクのまま、何も成長していなかった。いや、ヒーローとしてのデクは確実に成長している。それはメディアの反応が如実に表している。しかし、Aには昨日の出久が十年前の出久と同じように見えていたのだ。それはつまり、ヒーローとしてのデクと、奥底でずっと息をひそめているデクという二面性であった。
「きっめェ」
くしゃりと歪んだのはどちらだろうか。それは過去に残る彼らには、知る由もないのである。
それから一か月、二人は普段の生活に戻っていた。初めこそどちらもよそよそしく振舞っていたが、それも二日目にはいつもの距離に戻っていた。それどころか、どちらともなく歩み寄るようになり、会話が増えた。少し近い非日常の距離が、当たり前になろうとしていた。
さて、一か月ぶりの休日を満喫している緑谷は、ソファに座っているAの足元に座り、頭を膝に寄せ雑誌を読んでいた。Aも同じように雑誌を広げている。Aが読むのはもっぱら、芸術や海外誌、経済誌であった。出久はというと、現在話題沸騰中のヒーロー特集や、過去のエピソードが記録された雑誌を愛読していた。静かな部屋でただ紙を繰る音だけが響く中、ふと、視界にちらつく緑色の髪に気が付いた。ふわふわとした癖毛は緑谷が首を傾げる度に柔和に揺れる。触るとさぞや猫毛の様に柔らかであろう。しかし、緑谷の髪を触っても、この右腕では柔らかい髪質を十分に感じることは出来ないだろう。きっと、昔なら考えもしなかったであろう興味に、呆れ交じりの笑みがこぼれそうになる。それはまるで、Aが緑谷の髪に触ってはいけない理由をつらつらと並べているだけのようで、持ち上げた手を雑誌に戻した。
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サキエル(プロフ) - 黒酢さん» コメントありがとうございます。神作と言っていただけて、とても嬉しいです！ 正直私の技量では表しきれなかった部分があったのですが、黒酢さんにその欠片だけでも伝わっていたら幸いです。 (2020年11月8日 23時) (
レス) id: 3c96a8f4ce (このIDを非表示/違反報告)
黒酢 - 緑谷君のヤンデレ夢小説少ないからむっちゃ嬉しいです!こんな神作品に出会えてよかったです!! (2020年11月5日 16時) (レス) id: 3b4652fe38 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：サキエル | 作成日時：2020年5月1日 0時
