四十六話 ページ2
「A、なんでいう事聞けないの？」
間髪入れずに、鳩尾に拳を入れる。
「うえ……ッ！！」
躊躇いもなく放たれた拳に吐き気がこみ上げる。座り込むAの襟を掴み、ただ無表情で見つめた。ぐっと引き寄せられ近づいた出久の瞳は、深緑でまっすぐにAを見つめている。ごまかしが効かない目だ。まるで腹の底に氷でも当てたかのような冷たい感覚に、なぜか少しの既視感を覚える。子どもの頃、酷いいたずらをして親にこのような目で見られたことがあるかもしれない。いや、それよりももっと冷たい目だ。軽蔑の意思とは違う。Aを蔑むのではなく、どこまでも見通してやろうという強い意志が感じられる目だ。Aが触れたことのない自身の奥の奥まで見通さんとする目に、Aははっきりとした畏怖を感じる。
「外は危ないんだよ。さっき敵とヒーローが街中で交戦してた。もしそれにAが巻き込まれでもしたら、間違いなく、Aは抗う間もなく死ぬよ。元プロヒーロー爆心地が惨めにも人質にされるなんて、目も当てられないじゃないか」
ねえ、分かってるの。疑問符さえも許さない強い口調に、Aは歯をぐっと食いしばり、負けじと出久の深緑の瞳を凝視する。
「……分かってんだよ、今の私が簡単に殺されることくらい……私が一番分かってんだよ」
少し声が震えた。膝も笑っている。情けない。デクなんかに怯える自分が。ただの木偶から逃げ出したくなる自分が。
「てめェが私をここまで縛り付ける理由なんざ知らねぇ。なあ、何でだよ。まだ中学ン頃を根に持ってんのかよ」
「……根に持ってるか……そういうわけじゃないけど、僕をこんな風にしたのはAだよ」
「は、あ……？ ワケ、分かんねぇ。この手離せよ……！」
肩を引き、身を捩っても、出久は依然として胸倉を掴んだまま離さない。古傷で凸凹になった右手が、Aの服にしわを作っている。
「ッ離せよ！」
意図せずに伸びた足はまっすぐに出久の腹を狙う。しかし、その足は出久に届く前にぐっと足首を掴まれ、脇に抱えるようにして捕らえられた。そしてAがバランスを整える前に出久は体重をAにかける。当然、二回りほど大きい出久を片足のAが支えられるはずもなく、二人はフローリングの床へと倒れ始める。
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サキエル(プロフ) - 黒酢さん» コメントありがとうございます。神作と言っていただけて、とても嬉しいです！ 正直私の技量では表しきれなかった部分があったのですが、黒酢さんにその欠片だけでも伝わっていたら幸いです。 (2020年11月8日 23時) (
レス) id: 3c96a8f4ce (このIDを非表示/違反報告)
黒酢 - 緑谷君のヤンデレ夢小説少ないからむっちゃ嬉しいです!こんな神作品に出会えてよかったです!! (2020年11月5日 16時) (レス) id: 3b4652fe38 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：サキエル | 作成日時：2020年5月1日 0時
