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マンションを内見したとき、私と田ノ上さんの前で阿部さんは確かに宣言していた。
実際にその言葉が決め手にも、後押しにもなったのも認める。
いざという時の拠り所があるのは心強いが、でもそれはあくまで不審者が出たとか虫が出たとか、そういう場面での話だ。
私事の面倒まで見てくれるなんて、そんな都合のいい話がどこにある。
個人的なことで、お人好しな阿部さんに迷惑をかけるんじゃない。
胸を張って飄々と強がっていたいのに、こうして向き合う阿部さんの目も、表情も、そして言葉も、私の薄氷ほどの厚みしかないハリボテの壁を簡単に突き破ってくる。
「そこまでしなくても良いよ」といつもみたいに素っ気なく言えばいいのに、それを頑なに引き止めるのは幼い日の私だった。
この人には甘えてみなよ。
もう我慢しなくていいよ、と。
体調は最悪だし、化粧っ気のない自分の顔がどれだけのものか想像したくもなかったけど、私は無理やり笑顔を作った。
口元が震える。
視界が水の膜で歪む。
でもそんなことはどうでも良い。
すきだ。
好きだよ、阿部さん。
恋とか愛とかまだ良く分からないけど、でも、あなたが好き。
感情が、言葉を介さずに伝わればいいのに。
繋がれた右手に縋るように力をこめると、阿部さんまで泣きそうな顔で笑いながら、それをしっかりと手を握り返してくれた。
安心感からか、もしくは薬が効いてきたのか、眠気は突然襲いかかってくる。
咄嗟に阿部さんを呼んだものの、唇がわずかに薄く開く程度で声にも音にもならなかった。
そんな私に気が付いたのか、ぼやけた視界に彼の手が伸びてくる。
「ねえ、もう一つだけ王道に付き合ってよ」
「え…な、に…」
指が頬を撫で、無意識に頬を擦り寄せた。
だめだ、思考まで追いつかなくなってきてる。
勝ち目のない睡魔と戦っていると、頭上からまた声がした。
「おやすみ、Aさん」
一瞬の間。
ベッドが小さく軋む音。
何かが覆い被さるように近付く。
顔にかかる影。
瞬間的にふわっと阿部さんの匂いが香った。
柔軟剤なのか香水なのか形容し難い、とにかく、嗅ぐだけで安心する阿部さんの匂い。
それから、火照った頬に、何か柔らかいものがツンと当たって離れる感触。
違う。
そんなはずはない。
阿部さんが、そんなことするはずがない。
これはきっと、
きっと──……あれ、なんだっけ
「早く良くなってね」
低く柔らかい声に誘われるように、私は意識を手放した。
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泥濘(プロフ) - ちいさいばあばあさん» コメントありがとうございます。返信が遅くなりまして申し訳ありません。話の展開がゆっくりですが、引き続き今後の展開を見守っていただければ幸いです。 (2月25日 22時) (
レス) id: 014ca7ae0d (このIDを非表示/違反報告)
ちいさいばあばあ(プロフ) - あべちゃんとマネちゃんが付き合う事になるといいですね。 (2月14日 17時) (レス) id: b4b34b6799 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泥濘 | 作成日時：2024年1月25日 0時
