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こちらの思惑に気付いているんだかいないんだが、阿部さんは穏やかにも余裕そうにもとれる表情を崩さずベッドに腰掛け、足を組んで見下ろすように私を眺めていた。
整髪料も付けていない、セットもされていないオフモード全開の前髪が、彼の切れ長な三白眼を強調するように重なっている。
毛先が目元のあたりで緩くうねっていて、彼が身じろぐ度に一緒になって揺れていた。
そういえば「頑張ってサラストにしてるけど、本当は癖っ毛なんだよね」とメイクルームで言ってたっけ。
そんなことを思い出しながら、なかなか見ることができない角度からの推しの端正な顔をまじまじと見学していた。
「ねえねえ阿部さん」
「んー？」
「…予定、狂わせちゃってごめんね」
布団の中から伝えた声は歯切れも悪くくぐもっていたし、多分、声量もそこまで大きくはなかった。
唐突な謝罪に阿部さんは一瞬きょとんとしたのち、
「わはは、今さら気にすんな」
そう言ってこちらのジメジメと湿った気持ちを吹き飛ばすような爽快な笑いに変え、布団からキノコのように生えた私の頭をぐしゃりと撫でる。
私は人に触られるのが苦手だ。
人の体温を感じることも、それどころか至近距離で話すことだって苦手だった。
本来なら。
なのに「やめて！」と抗議することも、手を追い払うこともしないのは、阿部さんだから。
彼になら「別にいいや」と思うどころか、最近では「もっとして欲しい」と期待するようにすらなってしまった。
例によって言葉には出せないが、そう思えるだけの距離にまで近付けるようになったのだ。
あくまで、一方的にだけど。
大人しくされるがままの私に、阿部さんは気を良くしたらしい。
「Aさんがやってほしかったこと、俺が全部やってあげる」
「へ？」
そう言うや否や、大きな手のひらがぐしゃぐしゃに掻き乱された髪の毛を直す。
嬉しそうに目を細め、丁寧に、繊細なものを扱うようなその仕草は、気のせいでなければ慈しみさえ孕んでいるようにも見えた。
自分にそんな大層な価値があるとは思えなかったが、それでも心臓は大きく鼓動を打ち始めた。
胸が詰まり、苦しい。
「阿部さんのペットにでもなったみたい」
銅鑼みたいな心音が彼の耳まで届くことのないよう、その場を取り繕うように誤魔化してみたが、果たしてうまくいったかどうかは分からない。
私はされるがまま、そしてぎこちなく目線を泳がせながら、布団の隙間から髪をすく阿部さんをジッと見上げていた。
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泥濘(プロフ) - ちいさいばあばあさん» コメントありがとうございます。返信が遅くなりまして申し訳ありません。話の展開がゆっくりですが、引き続き今後の展開を見守っていただければ幸いです。 (2月25日 22時) (
レス) id: 014ca7ae0d (このIDを非表示/違反報告)
ちいさいばあばあ(プロフ) - あべちゃんとマネちゃんが付き合う事になるといいですね。 (2月14日 17時) (レス) id: b4b34b6799 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泥濘 | 作成日時：2024年1月25日 0時
