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＊
「おまたせ。じゃ、寝よっか」
私の代わりに洗い物を終えてくれた阿部さんは、キッチンから呼びつければいいものを、わざわざ数メートル分の距離を歩いてソファまで迎えにきてくれた。
こっちは少しも待ってなどいない。
それどころか体調不良を言い訳に、客人に家事をさせてしまっている。
申し訳なさと情けなさにわずかに顔を歪めれば、不思議そうな顔をした彼が、なかなか動かない私に向かって「ほら」と手を差し出してくる。
おずおずと握ると、ついさっきまでお湯に触れていた阿部さんの手は少しだけしっとりとしていた。
「俺らの家の間取りって…ほぼ一緒だったよね？」
「うん」
「了解」
彼は明るい声で言いながら私を立ち上がらせる。
目一杯、お兄ちゃんをしてくれている阿部さんに甲斐甲斐しく手を引かれながら、私たちは寝室に向かった。
「阿部さん、すぐ帰っちゃう？」
短い廊下。
さっきまで過ごしていたダイニングの暖かなオレンジ色の光が分断された途端に不安を覚えた私は、前を歩く華奢な背中に向かって、つい問いかけてしまった。
ポロリと溢れた本音にハッとした私はすぐさま我にかえり、繋いでいない方の手で「しまった」と口元を押さえる。
だけどそんなのは、なんの意味もない。
彼が一瞬で立ち止まり、そしてニヤリとほくそ笑みながら振り返ったのが見えると、悔しさに唇を噛み締めた。
今のは、なんでもない。
焦って後ずさろうとする私に対してあからさまに嬉しそうな顔をしたかと思えば、
「寂しがり屋さんが寝付けるまでここにいてあげる」
なんて、繋いだ手を引き寄せながら押し付けがましく言ってきたもんだから、恥ずかしいのと、無性に腹が立ったのとで、思わず口元を抑えていた手で腕に猫パンチしてやった。
くははと声をあげて笑いながら阿部さんは「ごめんごめん」と口先だけは謝ってくれたけど、胸をざわつかせる恥ずかしさも、よく分からない苛立ちも収まることはない。
阿部さんはこのあと、また実家に戻るらしい。
それもそうか。
本当なら、阿部さんはこの時間家族水入らずで過ごしていたはずなのだ。
もうすでに結構な時間一緒にいてくれた。
それは分かってる。
ものすごく感謝もしてる。
それでもまだ、寂しい。
ずっとここに居てよ。だなんて、相手を困らせるだけのわがままを、素直に思いついてしまう。
このまま手がくっついて離れなくなっちゃえば良いのに。
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泥濘(プロフ) - ちいさいばあばあさん» コメントありがとうございます。返信が遅くなりまして申し訳ありません。話の展開がゆっくりですが、引き続き今後の展開を見守っていただければ幸いです。 (2月25日 22時) (
レス) id: 014ca7ae0d (このIDを非表示/違反報告)
ちいさいばあばあ(プロフ) - あべちゃんとマネちゃんが付き合う事になるといいですね。 (2月14日 17時) (レス) id: b4b34b6799 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泥濘 | 作成日時：2024年1月25日 0時
