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もうとっくに手は拭き終えているはずなのに、阿部さんの手が私から離れることはない。
乾いたウェットティッシュがテーブルに置かれる。
躊躇いながら、少し湿った指先同士がどちらともなく絡まると、触れ合い、繋がれた部分にじんわりと温かさが生まれた。
横並びのソファに座り、お互いに体を斜めにして向かい合いながら見つめ合う。
これはただの握手。
そう呼ぶには幾分か情がこもり過ぎている彼の無骨な親指が、私の指の背を確かめるようにするりと撫でた。
なんだかそれが無性にいやらしく感じた瞬間、ぞくり、と背中が粟立つ。
ねえ、それもう癖になってるでしょ。
勘違いするからやめてよ。
言いたくても言えない言葉を飲み込み、抗議の意を込めて細めた視線をぶつければ、阿部さんは私の気持ちをのらりくらりとかわすように、
「気分はどう？」
上目遣いで微笑み、絡みつくような声で聞いてきた。
そんな顔、しないで。
私は薄くため息を吐いた。
──阿部さんは無自覚だろうけど、なんか変な空気になってる。
ここはお互いのために、一旦リセットしなければ。
彼が聞く「気分」とは風邪の症状のことなのか、それとも過去の話をした結果なのか、もしくは手を繋いだ感想なのかを真剣に考える。
その間も阿部さんは私の回答を急かすように、握った手を撫で続けた。
頭の良い彼が余白をもたせるようにわざと言葉少なく、曖昧に聞いたのだとしたら、こんなにタチの悪いことはない。
目的はなんだ。
唾を飲み込んだらごくりと喉が鳴った。
阿部さんの哀愁漂う、雨の中をニャーニャー鳴いて擦り寄る捨て猫みたいな表情からは何も分からない。
私は無知なふりをして首を傾げながら、「過去の話をした結果」に対する投げ掛けだと受け取ることにした。
それが一番答えやすく、安全な気がしたのだ。
何に対しての「安全」かは分からなかったけれど。
「気分はそんなに悪くないよ。自分のことを誰かに話したのは初めてだったけど…そうだね、今は案外スッキリしてるかな。なんか達成感がヤバい」
明るく言い放つ私の正面で、阿部さんが懐疑的な視線を向けてくる。
それを隠すつもりはないようで、眉間にわずかに皺を寄せながら、私の顔色や仕草、それから眼球の動きにいたるまで、全ての行動を慎重に精査しているようだ。
もちろんこちらの言葉に嘘はないが、笑顔が消えた途端に現れる、どこか艶かしささえ感じる三白眼に射抜かれていると思うと単純に緊張した。
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泥濘(プロフ) - ちいさいばあばあさん» コメントありがとうございます。返信が遅くなりまして申し訳ありません。話の展開がゆっくりですが、引き続き今後の展開を見守っていただければ幸いです。 (2月25日 22時) (
レス) id: 014ca7ae0d (このIDを非表示/違反報告)
ちいさいばあばあ(プロフ) - あべちゃんとマネちゃんが付き合う事になるといいですね。 (2月14日 17時) (レス) id: b4b34b6799 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泥濘 | 作成日時：2024年1月25日 0時
