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＊
「話してくれて、ありがとう」
私は静かに頷いた。
「…こちらこそ、拙い話をご清聴いただきありがとうございました」
初めて話した、私の生い立ち。
生い立ちというか、自分のなかの内側にある、脆い部分。
何から話せば良いか、どう伝えたらいいのか分からず常に言葉を探していたから、たぶん、すごく聞きにくかったと思う。
だけど阿部さんは、私が話の途中でどんなに詰まっても、どんなに間が空いても、順番が前後しても、それが終わるまで、隣で静かに耳を傾けてくれていた。
ときどき、自分のことのように眉を寄せたり、顔を顰めたりと苦しそうな表情を見せていたけど。
私も私で、そんな彼と向き合いながら、何度も感情の渦に飲み込まれそうになった。
やっぱり私の生い立ちは普通じゃなかった。
当時の理不尽な対応に、今さらになって突然マグマが噴出するような怒りが何度も込み上げてきたり、かと思えば、どうして私がこんな目に遭わなきゃいけなかったんだという苦しさと悲壮感に襲われて泣きそうになった。
産業廃棄物並のドス黒いエネルギーをまさか阿部さんにぶつけるわけにもいかず、感情が溢れそうになるたび、話を止めて自分の感情と向き合う羽目になった。
過去の心身的なトラウマ体験と決別するためには、人に話すのが良いらしいと、何かのはずみでそんな内容をネット記事で読んだことがある。
ようやく離脱した環境のことなんか思い出したくもなかったので、その時は「過去をほじくり返すことに意味なんてあるか」と鼻で笑っていたけれど、実際に話をしてみると、多少のダメージは負ったものの、カラダに残ったのはようやく吐き出せた！という満足感と達成感だった。
でも一番の理由は、阿部さんだから話せたということ。
それは私が好意を寄せているからとか、少しでも私に同情して振り向いて欲しいとか、そんな低俗で邪な理由なんかではない。
彼自身の人柄とか性格とか、そういったものの全てが信頼できると感じたのだ。
傷口を舐め合うだけの行為はごめんだ。
ましてや同情なんて、もっと嫌だ。
だけど阿部さんならきっと、私の過去を踏まえて良い方向へ導いてくれる。
そんな気がしたのだ。
私のつまらない人生のなかで唯一、幸運だったのは阿部さんに出会えたことである。
彼を巻き込み、彼の慈悲深い優しさに甘えて苦しめてしまったことへの罪悪感はある。
自分勝手なのは重々承知だが、この人に話せて良かったと心から思った。
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泥濘(プロフ) - ちいさいばあばあさん» コメントありがとうございます。返信が遅くなりまして申し訳ありません。話の展開がゆっくりですが、引き続き今後の展開を見守っていただければ幸いです。 (2月25日 22時) (
レス) id: 014ca7ae0d (このIDを非表示/違反報告)
ちいさいばあばあ(プロフ) - あべちゃんとマネちゃんが付き合う事になるといいですね。 (2月14日 17時) (レス) id: b4b34b6799 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泥濘 | 作成日時：2024年1月25日 0時
