36 ページ36
＊
ときどき、嬉しいこともあった。
自分の努力だけでは風邪がどうにもならず悪化し、さすがにまずいと感じた両親に病院へ連れて行かれた時である。
「どうしてこんな状態まで気付かなかったんですか！」
衰弱し、緊急外来経由で点滴を受けていると、カーテンで仕切られたベッドの外から私の状態を診た医者が両親を責める声が聞こえてきた。
難しい話はよくわからない。
だけどいつも私を叱る両親が、誰かに叱られているその状況は新鮮で衝撃だった。
高熱で意識が朦朧とするなか「しめしめ、良い気分だ」と思っていると、すぐに外ヅラの良さを発揮した父親が「あの子は昔から私たちの言うことも聞かずに無理をする子で…」とありもしない言い訳を巧みに使い、自分たちの評価を落とさずに医者を黙らせたので思わず舌打ちをしたが、その瞬間だけは息がしやすく感じたし、胸がいっぱいになった。
すでにお気付きかと思うが、私の十歳頃までの人格形成期がこんな環境だったので、か弱くなるどころか、雑草根性と反骨精神よろしく逞しく育ったワケである。
ところがここで思わぬ伏兵が現れた。
それは、四つ下の弟の存在である。
両親が弟にも私と同じような態度で接していたのなら、それが我が家の教育方針だと諦めるしかなかった。
だけど実際はそうではなかった。
幼いながらに他人に無関心だった私が「なんでコイツには優しいんだ」と嫉妬で怒り狂い、存在ごと嫌いになりかけたほど、彼らは私の前で、私と比較するように弟に対して普通の──一般的な子煩悩と呼ばれる両親のソレを惜しみなく注いだのだ。
例など挙げたらキリがないので割愛するが、両親から受けた姉弟格差を素直に受け取り、その優越感からすっかりクソ捻くれた性格に育ってしまった弟は、彼の中学の思春期以降、私のことをA家の「お荷物」として認識するようになった。
実際は私の方が彼よりも成績も運動神経も良かったのだが、両親と弟からしてみればそれすらも気に食わなかったらしく「生意気だ」と言われることもしばしば。
そして弟とは違う方向性に捻くれて育った私は私で、世間体のために大学に進学したあたりから、人との付き合いが苦手だと感じるようになっていた。
誰かのせいにしたくはないが、両親の存在と彼らから与えられる価値観は私の人格に大きな影響を及ぼし、そのおかげで私は人に気を使いすぎるせいで円滑な対人関係を築くことが困難だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1099人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
泥濘(プロフ) - ちいさいばあばあさん» コメントありがとうございます。返信が遅くなりまして申し訳ありません。話の展開がゆっくりですが、引き続き今後の展開を見守っていただければ幸いです。 (2月25日 22時) (
レス) id: 014ca7ae0d (このIDを非表示/違反報告)
ちいさいばあばあ(プロフ) - あべちゃんとマネちゃんが付き合う事になるといいですね。 (2月14日 17時) (レス) id: b4b34b6799 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：泥濘 | 作成日時：2024年1月25日 0時
