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＊
さて、どうしたものか。
私は困った。
というのも、もともと首を振るつもりなどなかったのだ。
これまで通り、人に何を聞かれても過去の話は適当に嘘をついて流し、穏便に済ませるはずだった。
なんでわざわざ、面倒になることがわかっていて意味深に会話を引き止めたのか、その理由が自分でも良くわからなかった。
目の前で困惑する彼──阿部さんは、誰がどう見ても家族に愛されて育ってきている。
そんな人に、私の幼少期の生い立ちや家族の話をしたところで、はたして理解が追いつくのだろうか。
別にここまできて誤魔化そうとは思わない。
話せと言われて抵抗もない。
それぐらいの関係性になったと自分では思っている。
だけどこれから話す事が原因で変な遠慮や同情が生まれ、私たちのこれまでの関係性が崩れやしないだろうか。
それだけが心配であり、なによりの不安だった。
「Aさん」
呼ばれて初めて、自分が俯いていたことを知った。
慌てて顔をあげると、阿部さんは眉間に皺を寄せながら微笑んでいた。
その表情に心が悲鳴をあげる。
彼は私なんかよりもずっと賢い。
なんなら私がこれまで出会った人の中で、誰よりも聡明で博識高い。
ここまでしておきながら、推しであり、人間としても敬愛する阿部さんにこれ以上隠し通すのは無理だと悟った。
人に背を向けられてきたばかりの人生で、私のことを正面から受け止めようとしてくれたのは阿部さんだった。
私の「大丈夫」が「大丈夫じゃない」ことに気が付いたのも。
あ、そうか。
だからだ。
阿部さんに「もっと頼って、もっと甘えて」と言われたあの日から、心のどこかで『じゃあ私のこと知ってよ』と思っていたのかもしれない。
だからさっき、首を振ったんだ。
「聞きます？」
「……Aさんが辛くないなら」
体調的な意味なのか、それとも過去の話を掘り返そうとすることに対してなのか。
「私は平気」
「…なら、聞きたい」
どちらにせよ、今は少しだけ阿部さんに寄りかかりたいと思ってしまった。
「分かった。……じゃあ、食べながら話す」
ちゃんと話せる自信はなかった。
それでも阿部さんには、私のことを知ってほしいと思ってしまった。
散々もったいぶっていたゼリーの蓋をベリベリと剥がすと、ツヤツヤでキラキラな弾力のある表面にスプーンで亀裂を入れる。
カップの縁にひたひたまで入ったゼリーがほんの少し隆起すると、どろりとしたシロップが漏れて手にかかった。
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泥濘(プロフ) - ちいさいばあばあさん» コメントありがとうございます。返信が遅くなりまして申し訳ありません。話の展開がゆっくりですが、引き続き今後の展開を見守っていただければ幸いです。 (2月25日 22時) (
レス) id: 014ca7ae0d (このIDを非表示/違反報告)
ちいさいばあばあ(プロフ) - あべちゃんとマネちゃんが付き合う事になるといいですね。 (2月14日 17時) (レス) id: b4b34b6799 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泥濘 | 作成日時：2024年1月25日 0時
