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手の中で何度もゼリーを転がしながら、少しも頭の中に入ってこない成分表の文字を追っていると、阿部さんが心配したような顔で「食べないの？」と横から覗き込んできた。
「食べますよ」
キョトンと首を傾け、私はへらりとワザとらしい笑顔を作った。
「いやぁー何ていうか…こういうの初めてだから、嬉しくなっちゃって」
今さらだけど、おせちもゼリーも食べるのがもったい。
この場を和まそうとはにかむ私の隣で、「そうなんだ」と軽く流してくれればいいものを、真面目な彼は真摯に受け止めてしまったようだ。
「そんな大袈裟な……だって、子供の頃とかこういうの、してもらったでしょ？」
してもらったことはない。
たったの一度も、ない。
そう言いかけた口を閉じて、考える。
阿部さんは難しそうな顔をしていた。
私もそれなりに大人なので、この状況でどう答えれば角が立たないかくらい分かる。
「してもらいましたねぇ」と懐古するフリをすれば、それでこの話は終わり。
阿部さんの記憶にとどまることもない。
いつもだったら、絶対にそうしてた。
だけど私は少しのあいだ黙り込み、次の瞬間、首を横に振っていた。
彼の表情がはっきりと強張った。
おそらく阿部さんの頭の中で、この反応に対しての仮説が、恐ろしい速さで組み立てられているに違いない。
ハッとした顔を見せたかと思えば、苦々しく、悲しそうな目をこちらに向けてきたのは、きっとそのせいだ。
明らかに、阿部さんは困惑していた。
私に何か言おうとして開いた口を噤む。
そして視線がゆらゆらと彷徨う。
たぶん、こちらを傷つけないようにという彼の無意識な優しさなのだろう。
色々と世話になっておきながら、こんな時にまで気を使わせてしまうのが申し訳なかった。
だから私から切り出した。
「いつも風邪は気合いと根性で治してきたから」
「だって、ご家族とか──」
「あー…両親はいたけど、てか今もたぶん健在だけど、助けてもらった経験はほぼないね」
言い切ると同時に阿部さんがおもむろに息を吸い込み、そして吐きだした。
きっと、想像した通りの返事だったのだろう。
努めて明るく言ったつもりだったが、彼の表情は冴えないどころか、どんどん暗く重たくなるばかり。
阿部さんの唇が薄く開き、閉じる。
それを二回ほど繰り返したあと、
「……ごめん。ここまできたらあえて聞くけど………どういうこと？」
いよいよその表情が、目に見えて険しくなった。
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泥濘(プロフ) - ちいさいばあばあさん» コメントありがとうございます。返信が遅くなりまして申し訳ありません。話の展開がゆっくりですが、引き続き今後の展開を見守っていただければ幸いです。 (2月25日 22時) (
レス) id: 014ca7ae0d (このIDを非表示/違反報告)
ちいさいばあばあ(プロフ) - あべちゃんとマネちゃんが付き合う事になるといいですね。 (2月14日 17時) (レス) id: b4b34b6799 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泥濘 | 作成日時：2024年1月25日 0時
