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自他共に認める『ベタ好き』な阿部さんが描いているのは、きっと恋愛ドラマとか少女漫画で定番の、甘ったるい雰囲気の中で行われる恋人同士の「あーん」のシチュエーションだと思う。
だとすれば、現在の彼の「あーん」はそれとは大きく異なり、全然手慣れてないしちっとも優しくなかった。
どちらかというと、親鳥が雛鳥にするような餌付けっぽい。
次から次へと口に運ばれる黒豆を咀嚼しようと一生懸命に口を動かす。
顔を背けたり、そう簡単に「早いって！」と文句を言えないでいるのは、阿部さんのその行為が純粋な憧れの上に立っているものだと理解し、なにより、こんな面白い状況なのに、本人は至って真剣でわざとではないのだと察したからだ。
アップアップな私に対して、満更でもなさそうな顔をしているところが、なんだか絶妙に阿部さんっぽいと思った。
ついでに言わせてもらえば、阿部さんに対し、こちらも悶々とした諸事情を抱えている状況なので、一ミリも甘みを感じないこういう空気の方がありがたいのである。
黒豆と、上品な味付けの煮物を少し食べさせてもらったところで「もう大丈夫」と伝えると、彼は頷き大人しく箸を止めてくれた。
ご馳走様、美味しかったと告げれば嬉しそうに微笑み、「残りは明日の朝にでも食べて」と食材が傷まないうちに蓋を閉め、そのまま立ち上がるとタッパーを冷蔵庫に押し込んだ。
「あ、そのゼリーはどうする？いま食べる？」
ソファに戻ってきた阿部さんがテーブルの上にポツンと置かれたままのゼリーを指差して聞いてきたので、私はこくりと頷いた。
こんな時でもデザートは別腹というか、おせちも美味しかったが、風邪のせいか、普段よりもすっぱくてさっぱりしたものも身体が欲している。
ソファから身を乗り出してテーブルの上のゼリーを引き寄せれば、真横に座った阿部さんがティースプーンを渡してくれた。
「それ食べたら、薬飲んで寝なね」
「そうします」
そっか、さすがにもうそんな時間か。
大事に握ったゼリーはまだひんやりとしていた。
それにしてもおせちといい、ゼリーといい、風邪を引いた時に誰かにこんな風に甘やかしてもらったのは初めてだ。
あらためて実感する初体験の数々に、湧き上がるような嬉しさが追いかけてきて勝手に口元がニヤついてしまう。
不審に思われるのが嫌で、頬が突っ張るくらい奥歯を噛み締めながらどうにか表情が崩れないようにと堪えた。
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泥濘(プロフ) - ちいさいばあばあさん» コメントありがとうございます。返信が遅くなりまして申し訳ありません。話の展開がゆっくりですが、引き続き今後の展開を見守っていただければ幸いです。 (2月25日 22時) (
レス) id: 014ca7ae0d (このIDを非表示/違反報告)
ちいさいばあばあ(プロフ) - あべちゃんとマネちゃんが付き合う事になるといいですね。 (2月14日 17時) (レス) id: b4b34b6799 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泥濘 | 作成日時：2024年1月25日 0時
