29 ページ29
＊
突如出現した『阿部さんのお母さんの手料理』
佐久間さん風に言えばSSR。
あれ、URだっけ。
当然堪えたところで我慢しきれるはずもなく、意味不明な鳴き声をあげて硬直していると、心配そうな顔をした阿部さんが覗き込んできた。
「…もしかしてこういうの苦手だった？」
そう聞かれ、ハッと我に返る。
苦手だなんて、とんでもない。
すぐさま頭がもげそうなほどかぶりを振り、勢いのまま噛み付くように「たっ、食べたいです。今すぐにでも！」とにじり寄れば、「う、うん。それなら良かった」と身体をやや後ろに逸らした阿部さんが苦笑いをする。
思いっきり引かれた。
でも、だって、阿部さんの家のお料理ですよ。
そんなものを目の前に、冷静にいる方が無理だっての。
動けない私の代わりに、阿部さんが甲斐甲斐しくキッチンから小皿とお箸を持って来てくれた。
その間に一旦、みかんゼリーはテーブルに置いて待機させる。
本当に何から何まで至れり尽くせりだ。
阿部さんにも、阿部さんのお母さんにもご迷惑をお掛けしてしまい大変申し訳ないと思いつつ、今この時ほど風邪を引いて良かったと思ったことはない。
「おせちには一つ一つにちゃんとした意味があるから、毎年全種類を必ず食べるようにしてる」と何かのインタビューで阿部さんが言ったが、そんな彼の監修なのか、タッパーにはぎゅうぎゅうに、たくさんの種類のおせちが少しずつ詰められていてすごく豪華だった。
華やかな料理に目を輝かせていると、阿部さんが「これ全部、母さんの手作りなんだ」と自慢げに教えてくれたので、また意味不明な鳴き声が出た。
おせちって、作れるんだ。
こういうものはどこかで注文するものだと思っていたし、そもそも長らく口にしていない。
年末の匂いを感じるようになると、家のポストに時々折込チラシが入っていることはあったが、目を通すことなくゴミ箱に放り込んでいた。
一人暮らしにお節料理など不要である。
だからこんなに豪華なものだとは思わなかった。
タッパーの中の料理の大半は名前も知らなければ、その意味もわからない。
感動しつつ、食い入るようにタッパーに顔を近づけて観察していると、見かねた阿部さんが「好奇心旺盛な猫ちゃんみたい」と笑いながら私を優しく引き離した。
大人しくソファになおり、静かに赤面する。
良い歳しておせち料理に夢中になるなんて、ずいぶんと子供っぽいところを見せてしまった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1099人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
泥濘(プロフ) - ちいさいばあばあさん» コメントありがとうございます。返信が遅くなりまして申し訳ありません。話の展開がゆっくりですが、引き続き今後の展開を見守っていただければ幸いです。 (2月25日 22時) (
レス) id: 014ca7ae0d (このIDを非表示/違反報告)
ちいさいばあばあ(プロフ) - あべちゃんとマネちゃんが付き合う事になるといいですね。 (2月14日 17時) (レス) id: b4b34b6799 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：泥濘 | 作成日時：2024年1月25日 0時
