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時計の秒針の音と、阿部さんが作業をする音だけが聞こえるダイニング。
家主である私は何もせず、ただソファに悠然と座りながら、阿部さんの手元で私生活が暴かれていくのを、ハラハラしながら見守ることしかできなかった。
靴下は両足を重ねて履き口のところをきちんと合わせてひっくり返し、洋服は襟元がシワにならないように指で調節しながら丁寧に畳んでくれている。
案外手際が良いんだなと感心してしまったのは、失礼ながら、阿部さんは家事の類があまり得意ではないと勝手に思い込んでいたからだ。
「………あ！」
「うっわびっくりした！…え、なに？」
「いえ、別になんでも──……あぁ！」
「だから、なに」
「……すみません、本当になんでもおぉぉあ」
「……Aさん？」
「ごめんなさいなんでもないです、お口チャックしときます」
それは以前彼氏のものだと阿部さんを勘違いさせてしまったダルダルスウェットの色違い。
それは、買い換えよう買い換えようと言い聞かせてもう半年近く使い続けている、色褪せて穴の空いたバスタオル。
それは……下着っぽくないナイトブラ。
女子力なんてものとは程遠い洗濯物たちが次々とカゴの中から現れるたびに「あ」とか「ひぇ」とか反応していたら、阿部さんに「うるさい」と叱られた。
仕方なく両手で口を覆いながら、男らしい彼の手によって布切れが綺麗に畳まれていくのを見届けるしかない。
神様仏様、阿部様。
これは、罰ゲームだろうか。
いっそのこと「なにこれ」なんて言いながら洗濯物を指でつまんで怪訝な顔をしてくれた方が、遥かに気が楽だった。
少なくともそんな黙々と、真剣な顔をして畳むようなものではないと思うんだ。
これが普段の私なら奇声を発し、泣き叫びながら洗濯物を取り返していただろうに、あいにく今は駆け寄るどころか立ち上がる気力もない。
唯一下着類だけは乾燥機から取り出すタイミングで脱衣所の専用ボックスの中に収納していたのは救いだった。
その下着類も随分前に通販のセールで適当に買った以来で、当然色気とは無縁の無難なデザインしかない。
それどころか上下どんな組み合わせになっても良いように、ズボラを極めて色は黒で統一している始末。
そんなものを万が一にでも彼に見られていたら、それこそ間違いなく暴れていた。
変な意味ではなく、これもどこかのタイミングでちゃんとしたランジェリーショップで買い揃えようと思う。
いや、本当に、変な意味ではなく。
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泥濘(プロフ) - ちいさいばあばあさん» コメントありがとうございます。返信が遅くなりまして申し訳ありません。話の展開がゆっくりですが、引き続き今後の展開を見守っていただければ幸いです。 (2月25日 22時) (
レス) id: 014ca7ae0d (このIDを非表示/違反報告)
ちいさいばあばあ(プロフ) - あべちゃんとマネちゃんが付き合う事になるといいですね。 (2月14日 17時) (レス) id: b4b34b6799 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泥濘 | 作成日時：2024年1月25日 0時
