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＊
「だから38度あります。熱」
「…………はあ？！」
なんでもないことのように言えば受け流してくれるかなと思ったが、当然そんなことなどなく、阿部さんはとても大袈裟に反応した。
…ややキレ気味に。
大した広さもないダイニングに、劈くような声が響く。
鼓膜を通り抜けた音がこめかみのあたりにキーンと響き、刺すような痛みに変わった。
これでも私は病人だぞと自分の立場を棚に上げ、思わず顔を顰めたが、当の本人はそんな些細なことを気にしている場合ではなさそうだった。
なにかにつけて私より一枚も二枚も上手な阿部さんが、マグカップを持ったまま狼狽えている。
『阿部は用意周到なんだけど、予想外の出来事が起こると一気にテンパる』
そう言っていたのは、確か岩本さんだったっけ。
何かの雑誌のアンケートを確認がてら回収していた時に、不意に目に入ったその言葉。
その時は「んなわけ」とまったく信じていなかったが、どうやら本当のことだったようだ。
あの冷静沈着な阿部さんがこうなった原因が自分だと分かっていても、どうしても、慌てふためく彼の姿が面白く思えてしまうなんて、私もなかなか良い性格をしている。
ここでさらに「正確には38度5分でした」と追い討ちをかけて見ようかとも考えたが、言ったところでその先の事態が余計に悪化するだけだったので、ここはグッと言葉を飲み込んで堪えた。
案の定、少し落ち着いた途端に、鬼のような剣幕で阿部さんが詰め寄ってきた。
「Aさん」と気迫ある声で名前を呼ばれ「なんですか？」と虚勢を張ってみたもののすぐに押し負けてしまい、背筋を伸ばしてラグの上で正座した。
「どう考えてもこの話の流れ的に微熱くらいだと思うじゃん！」
「それが38度もあるんですよね〜あはは」
「あるんですよね〜じゃねえわ。えっ、ちょっと待って、マジで意味わかんないんだけど」
理解に苦しむ。
そんな感じに頭を抱えようとした阿部さんが、持っていたマグカップに額をぶつけそうになった。
寸前のところでなんとか回避してカップをテーブルの上に置くと、今度はジト目でこちらを睨んでくる。
「………しんどくないの？」
聞かれ、ケロッとした感じで言ってみた。
「ぶっちゃけ、しんどいですね」
「おバカ！」
ラグの上で正座した私がへらへらと笑えば笑うだけ、ソファに腰掛ける阿部さんの表情は曇り、どんどん険しくなるばかりだ。
これ以上温厚な彼を刺激しないように、私はサッと笑顔を引っ込めた。
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泥濘(プロフ) - ちいさいばあばあさん» コメントありがとうございます。返信が遅くなりまして申し訳ありません。話の展開がゆっくりですが、引き続き今後の展開を見守っていただければ幸いです。 (2月25日 22時) (
レス) id: 014ca7ae0d (このIDを非表示/違反報告)
ちいさいばあばあ(プロフ) - あべちゃんとマネちゃんが付き合う事になるといいですね。 (2月14日 17時) (レス) id: b4b34b6799 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泥濘 | 作成日時：2024年1月25日 0時
