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さっきの、その、無意識に阿部さんの手を頬に擦り付けたのはノーカンとして、誰かに甘えるなんて酩酊状態でもなければ到底無理な話だ。
「言葉で」なんて、特に。
「寂しい」と伝えるだけで胸が張り裂けそうで、呼吸だって苦しくなるくらいいっぱいいっぱいになるのに「ここに居て欲しい」だなんて、そんなの、ハードルが高すぎる。
だけど帰したくない。
阿部さんに、帰ってほしくない。
言葉で甘えられないなら、直接言えないのなら、多少遠回りになっても行動でだったらこっそり甘えられるんじゃないか。
服の袖を引くわけではない。
阿部さんには触れずに、あくまでも、自然に。
気が付けばいつの間にか長居してしまった。
そんな環境を、こちら側が作り出せばいいのだ。
私は、そう考えたわけである。
抱えている洗濯カゴは、拙い作戦を遂行するための重要なアイテム。
それをそう簡単に、阿部さんに渡すわけにはいかない。
自分で畳むと申し出た私に、ソファに座ったままこちらを見上げる阿部さんがムッとした顔で唇を尖らせた。
「それじゃあ俺はただここに来てコーヒー飲んでるだけじゃん」
そう言われても、上目遣いがあざといな、今年も変わらず可愛いなと思うだけで、カゴを渡す気にはならない。
「阿部さんは私が畳んでいるあいだ、話し相手になってくれればいいよ」
照れ隠しで言ったつもりが、やや上から目線の提案になってしまったが、少し考えた素振りをみせたあとで彼はしぶしぶ了承してくれた。
……ホント、こういうお願い事だったら、すぐに言えるのに。
阿部さんが淹れたコーヒーの香りに包まれるダイニングキッチン。
向井さんが引越し祝いにくれたもの。
私がいつも飲んでいるもの。
それを阿部さんが淹れただけ。
たったそれだけのことなのに、私の知らぬ間に淹れたコーヒー一つで、この部屋の所有権が彼に移ったような、人の家にお邪魔しているような感覚になってしまうのだから不思議だ。
それもこれも私たちの家が広さと階数以外、ほぼ同じ構造と間取りになっているせいなのかも知れない。
ソファに座りながらコーヒーを嗜む阿部さんのすぐ近くのラグの上に座った私は、作戦通り、のんびりとした動作で洗濯物を畳んでいる。
テレビも付けず、音楽も流さない。
その代わり、阿部さんはこちらが要求した通り、他愛もない雑談に率先して付き合ってくれた。
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泥濘(プロフ) - ちいさいばあばあさん» コメントありがとうございます。返信が遅くなりまして申し訳ありません。話の展開がゆっくりですが、引き続き今後の展開を見守っていただければ幸いです。 (2月25日 22時) (
レス) id: 014ca7ae0d (このIDを非表示/違反報告)
ちいさいばあばあ(プロフ) - あべちゃんとマネちゃんが付き合う事になるといいですね。 (2月14日 17時) (レス) id: b4b34b6799 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泥濘 | 作成日時：2024年1月25日 0時
