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ソファに座る後ろ姿は完全に部屋に馴染んでいて、ここは阿部さんの家だっけか？と錯覚しそうになるくらいだ。
物音に気が付いた阿部さんが振り返る。
こちらが「戻りました」と伝えるよりも早く、悪びれる様子もなく「勝手にもらってまーす」と紺色のマグカップを掲げた。
彼らしい自由気ままな態度に、知らず知らずのうちに強張っていた肩の力が抜けていく。
「とりあえず俺の分しか淹れなかったんだけど、Aさんが飲むならお湯まだ残ってるし淹れるよ」
「ありがと。だけど…今は良いかな」
ソファに近付くなり聞かれ、断ると同時に私がわずかに眉間に皺を寄せた一瞬を阿部さんは見落とさなかった。
「もしかしてコーヒーの香りもしんどい？だったらごめん」
探るように聞かれ、慌てて首を振った。
「あ！匂いは全然大丈夫。本当は飲みたいんだけど、多分今は味の濃いものとか受け付けなさそうで……」
そう言いながら胃の辺りを摩ると、阿部さんは「ああなるほど」という顔をした。
「だからホント、私は気にせず好きなだけグイッと飲んでくださいませ」
「なら良いんだけど………ってなに持ってんの？」
手元を指差され、見やすいように抱えるようにしていたカゴを少し傾ける。
「溜めに溜めてた洗濯物。さっき回したのが乾いたからここで畳んじゃおうかと」
「ならそれ俺がやるよ」
嬉々としてテーブルにマグカップを置き、立ちあがろうとした阿部さんを言葉で拒んだ。
「いいのいいの。何かしてないと気が紛れないから」
本当のことを言うと、これはちょっとした作戦だった。
家に来てしまった阿部さんをどうすべきか。
帰すか、帰さないか。
脱衣所に逃げ込んだ短い時間の中でせめぎ合った私は、やがて一つの結論を導き出していた。
──せっかく来てくれたのだから、一分でも長居していただきたい。
よく考えてみたらこの機会を逃せば、私は試験明けの10日まで誰にも会えなくなる。
阿部さんは三が日明けの4日から、地方の泊まりも含めて立て続けに仕事が入っていたはずなので、会おうと思っても会えない。
つまりチャンスは今しかないのだ。
諸々の状況を総合的に判断した結果、風邪由来の人寂しさに負け、理性よりも自分の感情を優先させたワケである。
優しい阿部さんのことだから「しばらく居てください」と面と向かってお願いをすれば素直に聞いてくれるだろう。
じゃあなんでそうしないか。
答えは簡単だ。
単純に、私が甘え下手だからである。
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泥濘(プロフ) - ちいさいばあばあさん» コメントありがとうございます。返信が遅くなりまして申し訳ありません。話の展開がゆっくりですが、引き続き今後の展開を見守っていただければ幸いです。 (2月25日 22時) (
レス) id: 014ca7ae0d (このIDを非表示/違反報告)
ちいさいばあばあ(プロフ) - あべちゃんとマネちゃんが付き合う事になるといいですね。 (2月14日 17時) (レス) id: b4b34b6799 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泥濘 | 作成日時：2024年1月25日 0時
