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「好きにしててください」
部屋に入りいつものソファに彼を座らせると、私はお茶を出すことも、隣に腰を下ろすこともなくダイニングから出て行こうとした。
「あれ、どこ行くの？」という阿部さんの問いを背中に受けながらも「ちょっとタイム」と逃げるように扉を開けて廊下に出る。
短い廊下を小走りで駆け、向かった先は脱衣所。
一人になりたいと感じたり、短時間の考え事をしたいと思ったとき、適度な広さと閉鎖感を兼ね備えた脱衣所に籠るのが私の癖だ。
脱衣所の扉をきちんと閉めると、そこにもたれ掛かって長く息を吐く。
今しがた手放しに阿部さんの来訪を喜んだが、我に帰ると、色々と気持ちの整理が必要だった。
阿部さん、本当に来ちゃった。
もちろん嬉しい。
でもその反面、「なんでこんな時に」という気持ちもある。
今の私は普通じゃないのだ。
というか、おかしい。
恥ずかしげもなく阿部さんの手に頬擦りするくらいには。
「変なことしたらどうしよう…」
呻きながら真正面の洗面台の鏡に映る自分の姿を見たら、さらに頭を抱えたくなった。
顔に生気はなく青白いくせに熱のせいで火照った頬がやけに赤い。
まるで幼稚園児が描いた人物画の配色みたいだ。
倦怠感に負けて適当に乾かしたのが悪かったのか、普段ならトリートメントやらオイルを使ってきちんと手入れをしている長い髪もボサボサで、化粧水を大雑把に塗りたくった素肌には潤いも感じられない。
そしてトドメはいつもの着古したスウェットだ。
「ハハハ…終わってんなぁ」
全く笑えないのに笑えてくる。
普段の仕事モードの私を知っている阿部さんならこの状態を見ても「体調悪いんだからしょうがないじゃん」とフォローをしてくれるのだろうけど、そこは仮にも恋する乙女、いや、一人の人間としてこっちが気にしてしまうのだ。
せめて髪くらいは梳かすかと、筋肉痛に顔を歪めながら、キャビネットのS字フックに引っ掛けている櫛に腕を伸ばした。
納得するまで髪を梳かし、脱衣所に設置した乾燥機の中からまだほんのり温かいふわふわの洗濯もの取り出してカゴに詰めるとダイニングに戻った。
扉を開けるなり、芳ばしい香りが鼻を掠めた。
私が好きにしててと言い放った通り、阿部さんは勝手知ったるという感じにキッチンの戸棚からマイマグカップを引っ張り出し、ケトルでお湯を沸かし、向井さんからもらったドリップコーヒーを勝手に淹れて飲んでいるところだった。
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泥濘(プロフ) - ちいさいばあばあさん» コメントありがとうございます。返信が遅くなりまして申し訳ありません。話の展開がゆっくりですが、引き続き今後の展開を見守っていただければ幸いです。 (2月25日 22時) (
レス) id: 014ca7ae0d (このIDを非表示/違反報告)
ちいさいばあばあ(プロフ) - あべちゃんとマネちゃんが付き合う事になるといいですね。 (2月14日 17時) (レス) id: b4b34b6799 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泥濘 | 作成日時：2024年1月25日 0時
