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「おじゃまします」
礼儀正しくそう言いながら家に入る阿部さんは、ボロ雑巾のような姿で出迎えた私を見た途端、さっきまでの電話でのやりとりが嘘のようにあからさまに安堵した表情を見せた。
良かった。
独り言のように微かな声が聞こえたかと思うと、こちらの顔を覗き込むような体勢で少しだけ屈み、風邪で火照った片側の頬に手の甲をそっと押し当ててくる。
阿部さんの手は外気にさらされていたのかひんやりと、私にとっては心地の良い冷たさだった。
「ちょっと熱い…かな？」
「でも思ったより調子良さそうだね」と目と鼻の先ほどの距離で微笑まれれば、私はいつものような軽口も冗談も言い返す事ができずに視線を彷徨わせながらコクコクと頷くことしかできなかった。
唇をキュッと結ぶ。
ただでさえ体調が悪いのに、風邪とは違う熱が上がっていくのを感じた。
玄関の扉が開き、そこに阿部さんが立っていただけで、悔しいかな、ここ一番と断言できるほどの猛烈な安心感に包まれた。
厚手のロングコートを羽織り、ボリュームのあるマフラーに顔を半分ほど埋めて佇んでいた阿部さん。
たったそれだけのことなのに、それまで感じていた一人きりの寂しさも、重たいものを引きずるような怠さも、全部まとめて身体からスッと抜けていく。
来てくれた嬉しさが、会えた喜びが、無意識のうちに私を動かす。
頬に触れた阿部さんの手の甲に自らの手を重ねると、まるで猫のように目を細めながらそれに頬擦りしていた。
指の節が頬に当たるだけでは物足りなさを感じ、やや強引に手の甲を裏返して手のひらを向ける。
一連の行動に阿部さんは一瞬だけ目を見開いて驚いたものの、すぐに表情を緩めて受け止めてくれた。
目尻を下げる彼の瞳は優しい。
「どうぞ」とでも言うように、しばらくのあいだ、私の好きなようにさせてくれた。
阿部さんの手のひらは暖かくて安心する。
とんでもないことをしてる。
その自覚はあったけど、不思議と恥ずかしくはなかった。
「だいぶ限界だった？」
聞かれ、彼の真っ直ぐな目を見て頷く。
「ごめん」
不純物だらけの回答を、深く追求されることはない。
そうしてしばらくのあいだ好きにさせてもらい、たっぷり阿部さんを堪能したところでようやく気が済んだ。
静かに一歩、身を引いて距離を取る。
玄関に立つ彼に向かって何事もなかったように家の中に上がるように促すと、阿部さん専用のスリッパを渡し、ダイニングへと案内した。
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泥濘(プロフ) - ちいさいばあばあさん» コメントありがとうございます。返信が遅くなりまして申し訳ありません。話の展開がゆっくりですが、引き続き今後の展開を見守っていただければ幸いです。 (2月25日 22時) (
レス) id: 014ca7ae0d (このIDを非表示/違反報告)
ちいさいばあばあ(プロフ) - あべちゃんとマネちゃんが付き合う事になるといいですね。 (2月14日 17時) (レス) id: b4b34b6799 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泥濘 | 作成日時：2024年1月25日 0時
