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＊
「動けそうなら開けてもらおうかな」
阿部さんの言葉に首を傾げた。
「開けるって……何をですか？」
「玄関。いま家の前にいるから」
「えっ、誰の？」
「Aさんの」
「はぁっ？！」
そんなわけあるかと反応したら、その勢いで盛大に咳き込んだ。
「おーい、大丈夫かぁー」
気道が狭くなり、息苦しさを感じる胸の辺りを押さえつける。
呼吸をしようと躍起になるがあまり、酸素を取り込むたびに喉からヒューヒューと笛のような音がした。
なかなか激しくむせ返っているが、自分の身体の心配なんてどうでもよかった。
なんで阿部さん、家に来ちゃったの？
さっきまで実家のこたつでぬくぬくしてたはずじゃないの？
というか、もう玄関の前にいるってことは阿部さんの周りがやけに静かだなって思ってたのは、ずっとマンションの廊下で喋ってたからってこと？
なにひとつ、理由が分からん。
「なんで…？」
シンプルな言葉で投げかけた疑問に、阿部さんはこちらが落ち着くのを十分に待ってから答えた。
「だって俺が行こうか？って聞いたら『うん、ありがと』って返信くれたでしょ」
「………はい？」
なんだそれ。
沈黙のあと素っ頓狂な声を出した私に対して、阿部さんは「覚えてないんかい」とスピーカー越しにしょうがないなとでも言いたそうにケラケラと笑った。
彼が嘘を言っているような様子はない。
私はさらにパニックになった。
いやいや、そんなはずはない。
私はちゃんとあの時「ううん、ありがと」と送ったはずだ。
「確認してみたら？」
そう言われ、飛びつくようにチャット画面を開いて確認すると、
「…うっわ、まじか」
「ほら、言ったじゃん」
阿部さんに送った文面には彼の言った通り、確かに「うん」と肯定する言葉が残っていた。
まさかまさかの誤字。
凡ミス。
私のアホ。
もういっちょマヌケ。
「ねえ、本当は『ううん』って送ろうとしてたんでしょ？」
指摘され、うっと返事が詰まる。
代わりに喉の奥が小さく鳴った。
こちらの沈黙を肯定と受け取った阿部さんは「マジかぁ」なんてわざとらしい言い方をして余裕そうだ。
絶対、楽しんでる。
電話の向こうで片側の口角をニヤリと上げた姿がはっきりと見えた。
「さ、開けてよ」
もう来ちゃったもん。
語尾にハートでも付きそうな勢いで彼は言い、私が大きな絶望と諦め、それから少しのドキドキを含んだ視線を寝室の扉へ向けたタイミングで、見計らったようにチャイムが鳴った。
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泥濘(プロフ) - ちいさいばあばあさん» コメントありがとうございます。返信が遅くなりまして申し訳ありません。話の展開がゆっくりですが、引き続き今後の展開を見守っていただければ幸いです。 (2月25日 22時) (
レス) id: 014ca7ae0d (このIDを非表示/違反報告)
ちいさいばあばあ(プロフ) - あべちゃんとマネちゃんが付き合う事になるといいですね。 (2月14日 17時) (レス) id: b4b34b6799 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泥濘 | 作成日時：2024年1月25日 0時
