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＊
狼狽えつつ弁明しようとする私を、阿部さんはさっきよりもずっと優しい声で制した。
そして落ち着かせるように「いいの。謝らないで」そう言って、たぶん、笑った。
胸が苦しくなった。
ただでさえ風邪のときは心が弱りやすい。
いつもと同じはずの阿部さんの優しさが、相手を気遣うその一言が、いつもより無防備な私の心と涙腺をツンツンと刺激する。
目の前が次第にぼやけて、鼻の奥からさらりとした液体が垂れてきそうになり、咄嗟に上を向いた。
息を殺すように鼻を啜る。
大丈夫、電話口の阿部さんには気付かれていない。
はずなのに、
「風邪引くと、どうにも寂しくなるよねぇ」
阿部さんは含み笑いをしながら、まるでこちらの行動を横で見てるんじゃないかと思うようなタイミングと口ぶりで宥めてきた。
「……もしやあなたはエスパー？」
「ふふふ、実はそうだったりして。
なんて、俺も風邪引いたら無条件に心細くなるタイプだから。俺たち似てるしAさんもきっとそうなんじゃないかなって思ったの」
だとしても、だ。
やっぱり阿部さんは、エスパーか何かだと思う。
「寂しかったのに、良く頑張ったね」
えらいえらい、と私を落ち着かせる阿部さんに噛みつく。
「…こ、子供扱いしないで」
私あなたより年上なんだから、とぶっきらぼうに答えれば、阿部さんが「失礼しました」と謝りながら喉の奥で笑っていた。
軽くあしらわれ、私はヘソを曲げた。
ところが心外だと腹を立てたはずが、実際には背中を撫でるように阿部さんに優しく言われた言葉を間に受けて、瞬く間に頬に熱を集めているのだから、本当に慕情というものはどうしようもない。
「寂しくなんてない」
自分に言い聞かせるように、必死で取り繕うその声も彼には届いていないだろう。
「とか言って本当は〜？」
ニヤついた声がスピーカーから流れてきて、私は再び唇を噛んだ。
「……ほんのちょっとだけ」
寂しかった。
言わされた。
完全に向こうのペースに飲まれている。
これは不可抗力だと不貞腐れて唇を突き出す。
だけど実を言えば風邪を引いたと分かり、阿部さんとチャットのやりとりを交わしていたあの時から、ずっと抱えていた気持ちをようやく素直に吐露したことで、その恥ずかしさを大きく上回る開放感のようなものもあった。
阿部さんに出会ってからと言うもの、言語化できない複雑で繊細な感情に頭を抱えることが増えたと思う。
それまでの私は、そんな人間ではなかったはずなのに。
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泥濘(プロフ) - ちいさいばあばあさん» コメントありがとうございます。返信が遅くなりまして申し訳ありません。話の展開がゆっくりですが、引き続き今後の展開を見守っていただければ幸いです。 (2月25日 22時) (
レス) id: 014ca7ae0d (このIDを非表示/違反報告)
ちいさいばあばあ(プロフ) - あべちゃんとマネちゃんが付き合う事になるといいですね。 (2月14日 17時) (レス) id: b4b34b6799 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：泥濘 | 作成日時：2024年1月25日 0時
