ガラスの靴を振りかざして3_緑 (ページ7)

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一時間もしないうちに全ての作業が終わり、業者さんは爽やかな笑顔と共に引き上げていった。
玄関まで見送り、一人になってまた寝室へと戻ると、数時間前と一変した部屋の様子にじわじわと実感が込み上げてくる。

憧れだった寝室に、憧れのベッドのある生活。
しかもベッドはシングルサイズではなく、贅沢にセミダブルサイズを選ばせてもらったので、面積はかなり広く感じる。

そして阿部さんのセンスで見繕ってくれたグレーとグリーンの中間のような、モノトーンカラーで統一されたシーツや掛け布団は、寝室の白い壁とクリーム色のフローリングの配色を一切邪魔することなく調和し、おしゃれ度も一気に上がった。

変に緊張しながらも、セッティングされたばかりのベッドにそっと乗り上げる。
体重をかけた分だけ反発するマットレスの感触に驚きつつ、そのまま思い切って体を投げ出して倒れ込むと、想像をはるかに超える寝心地の良さに声にならない声が漏れた。

これは、ヤバい。

楽しさが込み上げ、勝手に口角が上がってしまう。

居ても立っても居られず、向こうは仕事中だと分かってはいたものの我慢ができなかった。
広々としたベッドのど真ん中に寝転がったまま、その場で笑顔にピースを添えた写真を撮ると、阿部さんとの二人だけのチャットに画像を送りつけた。

『阿部さん、ベッド来た！！QED爆上がりしてる！！本当にありがとう！！』

興奮する様子がそのまま伝わるような、実に頭の悪い文章である。

しあわせだー、と四肢を投げ出し、頭をからっぽにして真っ白な天井をぼーっと見上げていると、五分ほどで既読がついた。
ピコンと通知音が鳴りチャットを開けば、

『QOLな。めちゃくちゃ良い感じじゃん！』

という阿部さんからの短文と、猫にもアライグマにも見える、謎の生き物がスヤスヤ寝ているイラストのスタンプが一緒に送られてくる。
文章の内容もさることながら、阿部さんから返信が来たことが嬉しかった。

「かわいいなぁ」
ぽつりと呟いたら、頬のてっぺんにほんのりと熱が集まるのを感じた。
画面を見ている私は、いまとてつもなくだらしない顔をしているんだろうなという自覚がある。

ケータイを胸に抱いたまま目を閉じると、鼻から思いっきり息を吸い込んだ。
色々あったけど、阿部さんに買ってもらって良かったと心から思う。

その日は普段よりもだいぶ早い時間にベッドに入った。

いつ寝落ちたのか覚えていないほど爆睡したのは言うまでもない。