ガラスの靴を振りかざして3_緑 (ページ6)

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三日後、私の家にベッドが届いた。
もちろん阿部さんが勝手に選んだものではなく、私が阿部さんの助言をもらいながら自らの好みで選ばせてもらったベッドだ。

阿部さんは私が休みの日の在宅中に届くように手配をしてくれただけでなく、すぐにでも使えるようにと、こちらが知らないベッド周辺のこまごまとしたものまで、こっそり買い揃えてくれていたようだ。

「失礼いたします」
「あ、こちらです」
物腰の柔らかそうな業者さんの挨拶と一緒に、元々約束していたベッドフレームとマットレスだけでなく、シーツや掛け布団、それから毛布に枕と、寝るために必要なものが一緒になって運ばれる。

選んだベッドと一緒に、選んだ覚えのない荷物が寝室に運ばれていくのを、邪魔にならないところでぼんやりと眺めながら「やられたなぁ…」とぼやいた。
阿部さんめ。
買ってくれたものを、いまさら要らないなんて言えないじゃないか。

今日は久々の全休だったから前日の夜から色々とスケジュールを立てていたのだが、出鼻を挫かれてしまった。
本当ならこのあと買い出しへ行くはずだったのだが、すでに家具が揃ったダイニングと合わせても、雑貨の購入は通販で事足りそうだ。

ところで、
阿部さんは一体いくら使ったんだ。

ふと考えたが、恐ろしくなってかぶりを振った。
金額の詳細を知ったら間違いなく絶叫するだろうし、萎縮した私は二度と阿部さんに対して生意気な口をきけなくなりそうだ。

「知らぬが仏」という先人からの言葉もあるくらいだし、私自身のためにも、阿部さんのためにも、興味本位で確認しないないでおこう、うん。

でもお礼はしたい。
とりあえず今は、ロケのために朝早くから東京を離れた阿部さんのいるであろう方角に向かって、感謝の気持ちを込めて手を合わせた。
阿部様、本当にありがとうございました。

それにしても、さすがは高級寝具メーカーである。
搬入時の対応は、そこらへんの委託業者のそれとはまったく違った。
メーカーが直接手配した業者さんだからなのか、とにかく全てが丁寧だった。
ただベッドを運ぶだけでなく、組み立てからセッティングに至るまでの全てを行ってくれたのだ。

ベッドはどこに置きますか？と聞かれ、家具の配置などには明るくないと正直に伝えれば、数センチ単位でベッドを動かしながら、窓からの日差しが直接顔に当たらないように位置を調整してくれた。

間近で見るプロの仕事ぶりに、私はただ感動するばかりである。