ガラスの靴を振りかざして3_緑 (ページ49)

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『外村さんは暗めの色が好きだって言ってたよ。それから、あんまり派手じゃないデザインのものの方が使い勝手は良いと思う』

おそらく阿部さんは戸惑う私の様子に気が付き、こっそり助け舟を出してくれたのだろう。
想像するに容易い彼の配慮と優しさに、胸の奥がぎゅっと切なくなった。

安堵した私は胸の真ん中でケータイを握ると目を瞑る。
それから手早くチャットで『ありがとうございます、助かりました』と返した。

『いえいえ、俺も着いて行けたら良かったんだけど、生憎このあとも仕事だから頑張ってね』

何かあったらいつでも頼って。
そんな彼の言葉に口元が緩みそうになり、慌てて手で隠した。
これが仮に社交辞令だったとしても、私にとってはものすごく嬉しい。

阿部さんが私のことを気にしてくれているという事実が、さっきまでの不安を綺麗に取り除いてくれる。
誰にも悟られない範囲で勝手にテンションは上がるし、ここまで教えてもらったんだから、あとは自分でどうにかしなきゃと意欲さえ湧いてくるのだ。

阿部さんが何気なく掛けてくれる言葉の一つ一つが、ネガティブに走りがちな私の抑制剤であり、やる気を出させてくれる起爆剤だった。

「着いたよ〜」
「うわ、めっちゃ真ん前じゃないですか最高です」
「でしょ」

しばらくして田ノ上さんが車を停めてくれたのは、目的地の百貨店の正面だった。
信号がちょうど赤だったこともあり、素早くシートベルトを外しながら後部座席に座っていた阿部さんと舘様に挨拶をして急いで車を降りた。

「それじゃあAちゃん、よろしくね」
「任せてください！」

青になると車はゆっくりと走り出し、見送る間も無くすぐに見えなくなってしまった。
田ノ上さんも、他のマネージャーも、このあと夜まで仕事が入っていることを考えると、買い出しに行くと申し出た私のスケジュールを無理やり開けてくれたんだろう。

そんな先輩方の気遣いを無駄にはしたくない。
私は小さく「よし！」と気合を入れると、そびえ立つ百貨店の入り口へ向かった。

百貨店なんて、ましてや銀座なんて、普段は用事がなければ滅多に来ない。
入り口の案内板で目的のブランドがある階数をしっかりと確認してからエスカレーターに乗る。

洗練されたという言い方は少々大袈裟だが、私のような庶民には非現実的としか思えない値段のものが所狭しと並ぶ場所に来ると、心地良い緊張感と共に背筋がしゃきっと伸びるような、そんな感覚になった。