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唸るばかりの私たちに、後部座席に座っていた舘様から声が掛かる。
「マフラーは？」
「マフラー…」
その提案に、舘様と並んで座る阿部さんが補足してくれた。
「そういえばこの前、長年使ってたマフラーを手放したって言ってましたよ」
なんでも彼の自慢の飼い猫がマフラーを寝床として気に入ってしまい、取り返すのも可哀想だと譲渡したらしい。
その話を聞き、ハンドルを握る田ノ上さんと一瞬目を合わせる。
私たちは漫画のように、キラリと目を光らせていたに違いない。
「それだ！」
後部座席の二人にこれでもかというほど感謝の言葉を伝えつつ、すぐにケータイを取り出して調べる。
これから向かおうとしている百貨店にも、外村さんの好きなブランドの店舗があることが確認できた。
田ノ上さんがこちらを見たタイミングで頷く。
そのまま外村さんを除いたマネージャー陣だけのグループチャットに『外村さんの誕生日プレゼントはマフラーでいこうと思います！』と送れば、タイミングが良く、すぐにスタンプや了承する旨の文章が返ってきた。
さすがは仕事中でも報連相を怠らない優秀な先輩方だ。
「みなさん、マフラーで問題なさそうっす」
運転中のためチャットに参加できない田ノ上さんに状況を伝えると、進行方向を見たまま安心したように笑う。
そして私が「どんなマフラーが良いですかね？」と聞くよりも早く、
「じゃあ色とかデザインはAちゃんのセンスに任せるね」
と先手を打たれてしまった。
とんでもなく重大なミッションを与えられ、口元が引き攣った。
これで一安心だと思っていた気持ちが、わずかにざわつき始めた。
誰かにプレゼントを送るなど、久しくしていない。
手元のケータイで試しに『マフラー』と検索してみると、一つのブランドだけで恐ろしいほどの種類が出てきた。
色、デザイン、形、素材。
見ているだけで酔いそうだ。
「Aちゃん、任せちゃって大丈夫そう？」
返事がなかった私を不思議に思ったのか、田ノ上さんが聞いてくる。
ここで素直に「分かりません」とか言えば助けてもらえるものを、「大丈夫か」と聞かれ、ついいつもの癖で「任せてください」と威勢良く返してしまった。
私のおバカ。
本当はまったく、大丈夫なんかじゃない。
外村さんが何色が好きなのかも分からん。
途方に暮れていると、手の中でケータイが震えた。
見れば、チャットの通知だ。
それは後ろに座っているはずの阿部さんからだった。
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作者名：泥濘 | 作成日時：2023年11月4日 17時
