ガラスの靴を振りかざして3_緑 (ページ5)

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「よしよし。ならさっそく、ベッドのサイズから選んでもらおうか」

悪人のような口ぶりで、阿部さんは嬉々としてケータイを取り出した。
鼻歌まで歌いながらサイトにアクセスする阿部さんに、私は慌ててストップをかける。

「あの、」
「なに？」
当然、話の腰を折られた彼は不満げに私を見た。
これまでの面倒なやりとりを彷彿とさせる私の声と切り出し方に、普段は温厚さに隠れて息を潜めている三白眼がギロリと睨みつけてくる。
怯みそうになったが、こちらだってやられっぱなしではない。

「その前に、せめてさっきのお寿司のお金だけでも払わせてください」
そう言い寄った私に、阿部さんは「またその話か」とうんざりした顔をしながら、避けるように一歩下がった。

「その件は、もうとっくに終わってるの」
いい加減にしてよね、と私を見ることなく阿部さんが言う。

「終わってません」
こちらも負けじと一歩距離を詰めて強めに言い返せば、阿部さんは、もう！と牛みたいに鳴いた。

「Aさん頑固すぎじゃない？」
「それは、お互い様です」
「あんまりしつこいと、お兄ちゃん怒るぞー」

と、間髪入れず「えい！」というふざけた掛け声と共に、至近距離からペチンとおでこにデコピンが飛んでくる。

突然子供みたいな行動をする阿部さんに驚かされ、その衝撃から思わずよろよろと二、三歩後退した。
痛くはない。
額を押さえ「何をするんすか！」と怪訝な顔をすれば、いつものように片方の口角を持ち上げた阿部さんが嫌味な感じにこちらを見下ろし、今度は「お口を閉じないと噛み付くぞ」と脅してきた。

子供扱いしやがってと大いに不服を感じたが、言われた通りに口を閉じる。
するとこれまで一筋縄では行かなかった私が、急に大人しく従ったことが意外だったのか、阿部さんは「あれ？」と気の抜けた顔になった。

「じゃじゃ馬さんが、ずいぶんと素直になったじゃん」
やはり彼は私を小学校高学年くらいの子供だと思って接しているようだ。
そっちがその気なら、とこちらも両頬を思いっきり膨らませて見せると「リスみたい」と揶揄われる。
もちろん今までこんな態度を人前で取ったことはない。

「だって阿部さんに噛み付かれるのやだもん」
「……俺のこと何だと思ってるの？」
膨らんだ頬を指でツンツンされながら阿部さんに聞かれたので、

「頑固でイジワルなお兄ちゃん」
と思いっきり言えば、

「はは、言ってろ」
笑いながら、もう一度デコピンが飛んできた。