ガラスの靴を振りかざして3_緑 (ページ39)

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November_6+ ページ39

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子供みたいに手を引かれながら、阿部さんが爽やかにフロントの警備員さんと挨拶を交わす声に合わせて項垂れたまま小さく会釈をした。
失礼な態度だと思いつつも、今はとても顔をあげられる状態じゃなかったので、今日だけは勘弁して欲しい。

警備員さんの目に、私たちはどう映っているのだろうか。

阿部さんと私が芸能の仕事に従事していることは、入居時に管理会社から警備員さんへと伝えられている。
これは過去に別のグループの過激なファンが原因で、少しばかり厄介なことがあったからだ。

その時の被害は未然に防げたものの、それ以来、会社の借り上げではないマンションにタレントが住む場合は、管理会社を含め連携が取れる場所を選ぶようにしているのだと田ノ上さんが言っていた。

アイドルとはいえ年頃の男性ばかりなので、タレントの中には女性とお付き合いしている方もいる。
恋愛は本人たちの自由だから、写真を撮られるようなことがなければ会社がとやかくいうことではない。
私もどちらかといえば肯定派である。
というか上手いことやってくれ、というのが本心だ。

では、この場合は？

私が、阿部さんと手を繋ぎながらマンションに入ってきたこの状況はどうなるんだ。

もしも、そういう関係に見えてしまったとしたら、全然よくない。

警備員さんもその手のプロだから、プライベートな事に関して他言無用は貫くに決まっているんだろうけれど、タレントとマネージャーが手を繋いでいるこの摩訶不思議な光景を見てどう感じたのか、そこだけは知りたかったし弁明をしたかった。

エントランスを抜け、警備員さんがいるフロントを通過し、私たちは揃ってフロアの奥にあるエレベーターホールへと向かっていく。

阿部さんと私はタレントとマネージャーであり、それ以上でも以下でもない。

はずなのに、

こうして指を絡めあって手を繋いでいる事実だけを掬い取ると、どうしても、大変自分にとって都合のいい解釈が働いてしまう。

絶対に、
完全無敵なアイドルを貫く阿部さんに限ってありえないことなのに。

分かってはいても、これが彼にとってのスキンシップの一つだったとしても、男性との経験が少ない私にとっては間違いなく人生の一大事だった。

そもそも阿部さんは、
阿部ちゃんは、私が人生のドン底にいてくれた時に引っ張り上げてくれた命の恩人であり、推しである。

そんなもん、
意識するなと言われたところで最初から無理な話だ。