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ごめんなさいの一言で済む話が長引くほど、阿部さんの顔から感情が消えていく。
険悪な雰囲気の二人に挟まれ困り果てた私は、送迎車の運転席に座る木園さんに目を向けて助けを求めてみた。
さすがに二人のやりとりする声くらい届いていただろう。
そう思って期待したのだが、彼はこの異様なまでの空気感に一切気付くことなく、車のハンドルを抱き抱えるようにもたれ掛かった状態で、呑気に大きな口を開けて欠伸をしていた。
ぞのっち、頼むよマジで。
その間も言い合いは静かに白熱している。
徐々に牽制し合う二人が近付いていく。
おそらくこれが俗に言う「メンチを切りあっている」状態なのだろう。
だって、ばちばちと飛び散る火花が私にはハッキリと見えたから。
冷静沈着でストイックな岩本さんと、穏やかで優しい阿部さんの睨み合いには迫力しかない。
二人の距離はどんどん近付いていく。
それこそキスするんじゃないかってくらいの距離で。
ただただ私は静観していることしかできなかったのだが、二人の鼻先が触れ合いそうなほど近付いたところで、ふと我に返った。
これはこれで、撮られたらまずくない？
そう思った途端体が勝手に動き、そして私が止めに入ろうとするのとほぼ同時にどちらかの口元から「くく」と耐えかねたような音が漏れたのをきっかけに、事態は一変する。
岩本さんが耐えかねて吹き出した。
「あっは！！！阿部のマジの顔久々に見たんだけど！」
「照が煽ってくるからでしょ」
は、
煽る、とは？
つまり二人とも、ふざけ合ってたってこと？
でも確かに、阿部さんも岩本さんも最初は怒ってたよね。
え、えっと、じゃあどこらへんから？
二人と付き合いが長くない私には理解が難しすぎる。
このノリがさっぱり理解できず、エントランスに転がった二つ分の笑い声にただ顔を強張らせて立ちすくむ。
木園さんも一瞬だけ不思議そうにこちらを見ていたが、仲良くて良いなぁ、みたいな顔をしただけで、視線はまた手元のケータイへと戻っていく。
「悪い悪い。Aさんと偶然会って一緒に走ってたのは本当だけど、手は繋いでないから」
ほらな、と私の手首と繋がったままの手をひらひらと持ち上げながら、岩本さんは阿部さんの眼前でアピールする。
連動して小さく揺れる私の視界には、先ほどまでのカチコミ前の組員みたいなコワモテ顔ではなく、いつものくしゃっとした笑顔で阿部さんを小突いている岩本さんの姿があった。
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作者名：泥濘 | 作成日時：2023年11月4日 17時
