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「確かに。そう、かも」
「全体トークでAさんのチャットIDは知ってるけど、勝手に個人チャットするのは違うかなって思ったんだよね」
急に何を言われるのかと身構えてみれば、なんでもない話だった。
いや、なんでもなくはないか。
岩本さんを頼る頼らないは別として、彼からの申し出は今時珍しいくらい純粋で、正当な手順を踏んだ至極真っ当なものだった。
いやホント、マジで「女性のIDを手に入れたらとりあえず連絡してみる。ワンチャンあったらラッキー」みたいなスタンスでいる、世の中のチャラついた男どもに聞かせてやりたいと思うくらいには。
会社としてもタレントとマネージャーのプライベートの交流はある程度認められているし、もちろん私としても、彼とのチャットを拒む理由なんて一つもない。
「岩本さんなら大歓迎です！気にせず、いつでも連絡ください」
私がそう返すと、岩本さんが安心したように眉を下げてふにゃりと笑った。
「良かった〜」
「ええ、そんなになっちゃう？」
甘いものを食べた時みたいな可愛らしい声を漏らしながら、私を掴んでいない方の手で顔を覆う彼に思わず苦笑すると、すぐに拗ねたように唇を尖らせる。
その様子が子供みたいに可愛くて、こっちまで頬が緩んでしまった。
岩本さん曰く「女性の連絡先聞く時に、緊張しない男なんかいないでしょ」だって。
顔を隠す指の隙間から見える岩本さんの頬が、ほんのり赤くなっている気もする。
いくら身長が高くて、見た目もかっこよくて大人っぽく見えていても、やっぱり彼は年下の男性なんだなと思ってしまった。
言わないけど。
「ねえ〜、なんかその顔ムカつく」
「ごめんて」
そんなやりとりをしていた時だった。
私たちのいるエントランスの車寄せに、一台の黒いワンボックスがゆっくりと入ってくるのが見えた。
自然と視線はそちらに向く。
そしてその車に見覚えがあった私たちが「あれ、この車って…」とお互いに顔を見合わせたのと、その車の中からロケ帰りの阿部さんが降りてきたのは、ほぼ同時だった。
「お、やっぱ阿部だ」
「阿部さん、お疲れ様です」
阿部さんは私たちにもちろん気が付いている様子だった。
だって私とバッチリ目が合っていたから。
でも返事は返ってこない。
その代わり、ものすごく難しそうな顔をしながらツカツカと足早に歩み寄ってくる。
もしかしてロケ先で、何かあったのだろうか？
ニコリともしない彼の姿を見て、私はそんな不安を覚えた。
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作者名：泥濘 | 作成日時：2023年11月4日 17時
