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向かい合う岩本さんが、ジッとこちらの様子を伺っている。
私が初手で拒否するのを分かっていたのだろう。
獲物を見定めるような鋭い視線に、胸の内まで見透かされそうだった。
「俺Aさんにプロテイン貰って欲しいなって思ってんだけど」
「うっ……それは、確かに…欲しいかも」
こんなの、ほぼ誘導尋問である。
息が詰まるような圧迫感に押し負け、喉の奥から絞り出すように言えば、たちまち「ほらぁ」と岩本さんが顔をくしゃっと歪めて笑った。
走るようになってからというもの、プロテインをはじめ、いわゆる健康食品への関心度は上がっている。
ものは試しにと先日仕事の合間にちょっと調べてみたのだが、プロテインの種類や味の多さに驚き、これはちゃんと一つ一つ調べなきゃダメなやつだと後回しにしたばかりだった。
なのでガメツイと思われるかもしれないが、トレーニングの先生である岩本さんおすすめのプロテインなんて単純に信頼しかないワケで。
欲しい。
正直めちゃくちゃ、欲しい。
だけど阿部さんに続き、岩本さんにまで何かを貰うなんて良いんだろうか？という気持ちもある。
申し訳なさと、純粋に岩本さんセレクトのプロテインが欲しいという気持ちに挟まれ葛藤している一方で、すでに彼はこのやりとりの勝ちを確信したのか、満足げに口の端を持ち上げている。
「いくつかおすすめのがあるから、今度それあげるね」
「…痛み入ります」
くそ、今回も負けてしまった。
己の物欲に顔を歪めながら返事をすれば、「素直に喜びな」とお父さんみたいな口調で言われた。
「あとさ、」
まだ何かあるのか。
そう思っていると、岩本さんの大きな手が伸びてきて私の右手首を掴んだ。
突然のことに驚いたのは私だけで、当の本人は何でもないことのように落ち着き払っている。
Aさん、と柔らかい声で呼ばれ、阿部さんよりも少し高い身長の彼を正面から見上げた。
視線が絡み、岩本さんの喉元が小さくコクリと動く。
覚悟を決めたようにゆっくりと開いた口元を、凝視してしまった。
「俺も個人的にAさんにチャットしてもいい？」
「んぇ…？」
首を捻る私に構わず、彼は饒舌に語る。
「ほら、トレーニングの話とかさ、今までは楽屋とかでしか話せなかったじゃん。
今後も体を動かしたりするなら、トレーニングメニューを文章化した方が分かりやすいかなって思ったんだよね。あと俺も一応、ご近所さんなワケだから、何かあったら阿部の次に頼れるかなって」
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作者名：泥濘 | 作成日時：2023年11月4日 17時
