ガラスの靴を振りかざして3_緑 (ページ25)

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「阿部とはどう？ご近所さん同士うまくやれてる？」
「おかげさまで。しょっちゅう気にかけてもらってます」
「へえ、そうなんだ」

クイズ番組での賞品をお裾分けしてもらっているとを伝えると「え、なにそれ」と笑い、それから「めっちゃ良いご近所さんじゃん」と耳を傾けてくれた。

実はこの時の岩本さんの反応にホッと胸を撫で下ろしたのは、ここだけの話だ。
「え？お前らそんなことしてんの？」なんて小言を言われたり、訝しげな顔をされたら、阿部さんとの付き合い方を改めなければいけないなぁ、と思っていたのである。

私には友人がいない。
おまけに恋人もいなければ、頼れる誰かがいた記憶も薄い。
だからご近所さんになった阿部さんとの距離感が適切なのかを判断できる基準がなかった。
お裾分けを貰う、家具を組み立ててもらう、何かあったら家に来て手伝ってもらう。
彼も当たり前のように「手を貸そうか？」と言ってくれるので「じゃあお願いします」となるわけで。
ときどき我に返ったように「え、これって別に普通のことだよね？」と自問自答することがあった。

だけど岩本さんの反応を見る限り、私たちの距離感はおそらく適切であり「普通のこと」で間違いない。
二人だけのチャットがあり頻繁にやりとりしていたとしても、岩本さんをはじめメンバーやマネージャー達も私たちが近所に住んでいる以上は「なんでそんなことしてんの？」と首を捻ったりはしないだろう。

もちろん私と阿部さんの間にやましいことなんて一つもないけれど、他人の交友関係の是非を判断する基準は、結局のところ第三者の感性に委ねられる。
それこそ誰かが「変だよ」と唱えれば、どんなに身の潔白を証明しようとも、それはたちまち『イケナイコト』として認識されてしまうのだ。

芸能界なんて、特にね。

それの何が嫌って、私は別に良いとして、阿部さんの純粋な厚意を誰かに面白おかしく揶揄われることだった。

「……阿部さんがご近所さんだからって甘えすぎですかね？」
それでもやっぱり不安だったので、念のため、怪しまれない程度に探りをいれて聞いてみる。

すると岩本さんは考える間もなく、
「同じとこ住んでるんだし、必要なことでしょ。それにAさんは女性なんだから、不安なことがあれば阿部だけじゃなく俺たちにも頼りなよ」
とありがたい言葉と共に全肯定してくれたのだ。