ガラスの靴を振りかざして3_緑 (ページ24)

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岩本さんからも指摘があったように、笑顔を見せる機会も増え、メンバーやマネージャー陣との距離も目に見えて縮まった。
特にそれが顕著に現れたのは、同僚のマネージャー陣である。

それまでAさんと呼んでいた私より年下の外村さんと木園さんが、私のことを「姉さん」と呼ぶようになった。
私のことを姉さんと呼ぶ人なんて一人しかいないので、これは言わずもがな渡辺さんの影響だ。
彼らは年が近くノリも似ているせいか、楽屋で盛り上がっている姿を見かけることが多かったから、仕方ないといえば仕方がない事だった。
私だって別に、姉さんと呼ばれて嫌な気はしないし。

それからチーフマネージャーの田ノ上さん。
彼は割と早い段階から私のことを「Aちゃん」と呼んでいたのだが、いつでもどこでもその呼び方をしてくるので、最近は別グループのマネージャー陣まで私のことを「ちゃん」付けで呼ぶようになった。
おかげさまで会社の真面目な会議の時もほぼ「Aちゃん」で通っている。

でもまあ、私も私で外村さんのことを『トム』、木園さんを『ぞのっち』と呼ぶようになったし、たまーに田ノ上さんのことをふざけて『お父さん』って呼んだりするのでおあいこか。
もちろん、TPOは弁えてだが。

そっか、岩本さんから見ても、私がこのチームに馴染んできたなって分かるんだ。
自分を取り繕うことも、スンとすることもなく、ありのままの姿でいられる場所が出来たのは人生で初めてのことだった。
そう思うと、感動もひとしおである。

「こっち曲がろうか」という岩本さんの先導で目黒川沿いの道路を離れ、静かな住宅街に入った。
いつもの道よりもだいぶ手前の地点で曲がったその場所に土地勘はない。

一軒家を中心に低層住宅が建ち並んでいるこのエリアを走るのは、もちろん今日が初めてだ。
街灯の明かりが煌々と照らす道は、目黒川沿いの道よりもやや暗く感じる。
ただの住宅街に入ってきてしまったせいか、周囲にコンビニやお店の類はなく、人通りはさっきよりもぐっと少なくなった。
というか、歩いている人はほぼいない。
だからなのか、二つ分の軽快な足音と息を吐く音だけが、やけに大きく聞こえるような気がした。