ガラスの靴を振りかざして3_緑 (ページ23)

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「Aさん、仕事は慣れた？」
聞かれ、返事をしようとしたものの、肺に取り込んだ冷たい空気に咽せそうになる。
こほんと一つ咳払いをして呼吸を整えた。

「もうバッチリっす」
「それなら良かった」
「でもあくまでも個人的な見解になるんで、岩本さんから見てダメなところとか、要望とか、改善点とかあれば教ご教示願いたいです」

メンバー個人の意見ではなく、SnowManのリーダーとして私の仕事ぶりに不足している部分があるか、もしあるとすればそれは何かを直接聞きたいと思っていた。
だけどそのためだけにわざわざ多忙な岩本さんを捕まえるわけにもいかず、いつの日かと機会を伺っていたのだが、今がまさに絶好のチャンスというわけだ。

さあ来い、と身構える私に岩本さんが驚いたような顔をする。
走りながら一瞬だけ私を見て、また前を向くと困ったように眉を寄せた。

「そんなのないよ」
ちゃんと考えてくれたのだろうか。
「……本当ですか？」
疑うあまり顰めっ面になった。
横からジト目で彼を見れば、すかさず「危ないから前向いて」と短く注意される。

「俺の言葉は信じてくれて大丈夫だから、とりあえずその顔やめて。
Aさんは自分が思っている以上に頑張ってるし、良くやってくれてるよ。ありがとね」

幼子をあやすような言い方は、なんだかとても安心する。
岩本さんの言葉に嘘はない。
そう判断した私は、寒さと緊張で強張っていた頬をふにゃりと歪めた。

「うへへ」
褒められたことにむず痒くなり気の抜けた笑い方をすれば、つられるように岩本さんも「もーなにその笑い方」と一緒になって笑った。

「最初の頃に比べてよく笑うようになったよね」
「あー…どちらかといえばこっちの方が素に近いかもです。どうにも仕事モードってなると昔からスンとしちゃって」
照れ笑いを引きずったまま答える。

「真面目さん、ってことね」
「そんなそんな、皆さんに優しくしていただけるおかげです」

実際、私が自分でも性格が明るくなったと思うようになったのは最近のことだ。
佐久間さんほどの振り幅の大きさはない。
見た目でいうと猫背が少しだけ治り、胸を張れるようになったこと。
それから下を向いてばかりいた鼻先が、しっかり前を向くようになったこと。
その程度のことではあるが、それだけでもだいぶ、意識が変わった。

引越し騒動をきっかけに、今では楽屋での会話の輪に普通に入れるようになったし、言葉遣いも堅苦しさが取れてきたと思っている。