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ひたすら真っ直ぐ続く目黒川の沿道を走りながら、後ろから勢いをつけて走ってきた一人の男性ランナーに追い抜かされる。
いつものことなので闘争心に燃えることもなく「走るの早いな〜フォーム綺麗だな〜羨ましいな〜」くらいにしか思わず、どうぞお先にという感じだったのだが、なぜかその人のことが気になってしまった。
私が走り始めたここ一週間で、初めて出会った人だった。
すらっとした身長。
黒いパーカー越しに、背中を見ただけでもストイックに鍛えているんだろうな、というのが分かる引き締まった体型。
筋肉が綺麗についた長い足。
何よりも印象的だったのが、追い抜かされる際に数秒遅れてふわっと香ってきた、木のような、お香のような匂いだ。
明らかに知っている香りが鼻を掠め、それと同時に前を走る男性の姿があの人に似ていると判断した瞬間、慌てて声を掛けていた。
「岩本さん？」
走っていたせいで勢いがつき、そこそこの声量が出たことに自分でも驚いてしまう。
「え、なに？あっ！」
数メートル先を走る背中がびくりと反応する。
訝しげな顔でこちらを振り返ったのは、予想した通り、我らがリーダー岩本さんだった。
「Aさんこんなところで何してんの？って走ってるのか」
「はい！岩本さんも？」
「うん。風邪予防にね」
「私もです！体力作りっす」
足を止めた岩本さんに駆け寄り、二人で邪魔にならないように道の端に寄りながら、プライベートでの遭遇にその場で小さく盛り上がった。
聞けば岩本さんも私と同じように、時間がある日はこうして自宅周辺をランニングしているか、ジムへ通っているらしい。
今日はそのジムがマシンメンテナンスの日で終日休業しているから、ランニングに切り替えて走っていたとのこと。
「いつもここら辺走ってるんですか？全然気が付かなかった」
「いや、特に決まったコース作ってないからさ。今日はたまたま気が向いてこっちの方に走りに来ただけ」
ということは、私が岩本さんに出会えたのは本当に偶然だったようだ。
「Aさんの家って…確か阿部のとこだよね？」
「そうです、阿部さんと同じマンションなので、ここから歩いて二十分くらいですかね」
そう伝えると岩本さんが道の先、進行方向に目をやって、それからまた私を見た。
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作者名：泥濘 | 作成日時：2023年11月4日 17時
