ガラスの靴を振りかざして3_緑 (ページ17)

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「何食べたい？」
そう聞かれ、玉子サンドに手を伸ばそうとすると、彼女がすかさず首を振った。
「玉子とかハムはどうせ最後まで残るんだから、フルーツサンドと照り焼きチキンにしな！」

母親みたいなことを言いながら紙袋に詰めてくれたサンドイッチを冷蔵庫にしまう。
豪華な具材の詰まったサンドイッチは、ランニング後の楽しみとしてとっておくつもりだ。

キッチンから離れると、次は寝室に向かう。
いつまでもダラダラとしたまま寛いでいると走る気が萎えてしまうので、ランニングへ行くと決めた時にはさっさとランニング用のウエアに着替えるようにしているのだ。

寝室のクローゼットを漁りながら、寝巻きと兼用している薄手の長袖Tシャツを選ぶ。
その上からウインドブレーカーを羽織り、頭からかぶって着脱するタイプのネックウォーマーを首元にしっかり当ててから、ジッパーを一番上まで引き上げた。
ジャージだと走る時に足元がダボつくのが嫌で、伸縮性のあるランニング用のレギンスを履いているのだが、いまの季節はそれだけでは心許ないため、厚手の靴下と毛糸のレッグウォーマーを重ねて防寒対策もバッチリ取る。
肩甲骨のあたりまで伸びた髪を一つに結び帽子を被れば、それっぽい格好が完成した。
最後に薄いウエストポーチを腰に装着すると足早に寝室を出た。

玄関で運動靴を履きながら、阿部さんにチャットを送る。
「最近夜走ってるんですよね」と話したら「この辺の治安は悪くないけど、不安だから行き帰りの連絡は欲しいな」と阿部さんから言われているのだ。
過保護なお兄ちゃんがいたらこんな感じなんだろうな、という口ぶりだった。

『今から走ってきます』
送るとすぐに既読がついて返事が戻ってきた。

『いってらっしゃい、こっちはまだふっかと東京に戻る途中。寒いから気をつけてね』
そちらこそお気をつけて、という一文と一緒に謎の生き物が敬礼しているスタンプを送り、既読がついたのを確認すると、ケータイをウエストポーチにしまった。

エレベーターに乗り、フロントに常駐している警備員さんに「走ってきます」と挨拶をしてから外に出る。
エントランスを出れば、ぽっかりと穴が空いたように暗闇が広がっていた。

背後からのマンションの照明を頼りに、車寄せの広けたコンクリート部分でストレッチをする。
アキレス腱を伸ばしたり足首を回したりしながら、視線は目の前の、月明かりと街灯に照らされる閑散とした道路を見ていた。