ガラスの靴を振りかざして3_緑 (ページ14)

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私は自分のことになると素直になれないし、阿部さん曰く頑固で意地っ張りだし、そもそも誰かに甘えるなんて所業は「そういうキャラじゃないでしょ」と家族や周囲から嘲笑され、自分でも「甘えは恥」くらいの意識を持って育ってきた。

誰かに助けてもらったり、甘えることが許されるのは私とは正反対の、か弱くて、小さくて、守ってあげたくなるような──まさに前職で寿退社をした後輩のような女性で。
私みたいに身長が高く、ハキハキとして、一人にしていても問題なさそうな女性には手を差し伸べてもらえないし、そもそも似合わない。
私も『誰も助けてくれないんだから踏ん張れ！』と人生の中で挫けそうな場面になると自分で自分の背中を叩いて何度も言い聞かせてきた。

今考えれば私の育った環境が特殊だっただけで、甘えを許さないなんて「んなアホな」という話ではあるが、そのおかげで自他共に認める「強い女性」にはなれたので気にしてはいないけど。

そんな特殊な思考と環境に身を置いていた時間が長かったせいで、阿部さんに面と向かって「甘えてよ」と言われた時はひどく混乱した。
甘えたくても、その方法が分からない。
それどころか「頼る」とか「甘える」という行為に対して人よりも敏感に、大袈裟に反応してしまうし、自分がそれをすることに、ある種の嫌悪感や罪悪感に近い厄介な感覚を抱いていることに気が付いたくらいだ。

阿部さんはなんとなく、そんな私のぐずついた感情に気が付いているのかもしれない。

例えば阿部さんがどんなに大好きな推しだろうが、ご近所さんになり気兼ねなく話せる仲になろうが、”所属タレントとマネージャー”という私たちの立ち位置が変動するようなことは一切ない。
当たり前のことながら、どちらかの家で一緒にご飯を食べるようなことはないし、取り決めたわけではないが最低限のやりとりは玄関先で済ませるようにしている。
理由があればお互いの部屋に上がることはあったが、用事が済めばすぐに出て行ったし、入り浸るようなことももちろんない。

親しき中にもなんとやら。
阿部さんとは、そういう価値観も似ているのかもしれない。
チャットを送り合う。
物の貸し借りもする。
友達みたいだとは思っていても、お互いの核には踏み込まないし、触れない。
そんな彼だからこそ、絶妙な距離感が居心地が良いと感じて私の行動の端々に滲み出てきてしまったのかもしれない。

こんなこと、阿部さんには知られたくないし、言えないけど。