ガラスの靴を振りかざして3_緑 (ページ13)

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我々がお互いのことを兄妹みたいだと認識してからというもの、阿部さんは今まで以上に気軽にチャットをくれるようになった。

こちらからも差し障りのない内容の文章や一言を送ることはあるが、その割合は向こうが八割で、私が二割ほど。
というのも阿部さんは私のどんなにくだらない内容も無視せず、いちいち律儀に返してくれるので、なんだか申し訳なくなり気後れしてしまうのだ。

「おはよう」という朝の挨拶だったり、寝る前のちょっとした時間だったり、何気ないチャットの一文は交友関係の広い阿部さんからしてみれば他愛もないことかもしれない。
ただ長年友人のいなかった私にとっては、理想としていたご近所付き合いというか、気心の知れた学生同士のような気兼ねないやりとりが、生活に潤いを与えてくれるような気がして嬉しかったりする。

阿部さんは私に美味しいもののお裾分けをしてくれるだけでなく、日常の様々な困りごとにも付き合ってくれていた。

これまた別の日。
湯船にとっぷり浸かりながら、私はふと猛烈に活字を欲し、読書がしたくなったことがある。
ジップロックに入れて浴室まで持ち込んだケータイから阿部さんに『最近読んだ本で、おすすめのタイトルありますか？』となんの脈略もなく文字を送りつけると、それから十分もしないうちに彼のリビングにある本棚の写真が送られてきた。

ファンの中でも有名な「だてあべ」エピソードとして語り継がれている、舘様から引越し祝いに貰ったという立派な本棚だ。
そこにはジャンルごとに綺麗に分けられた書籍がずらり並び、図書館の一角のような見た目である。

『この中で気になるのがあったら貸すよ』と言われ、画像を拡大しながら吟味して一冊の本のタイトルを送れば『りょ』と返信が来る。
そして翌朝の出勤時間五分前の待ち合わせになると、小脇に抱えて家まで持ってきてくれるのだ。

それから家具を測るためのメジャーも貸してくれたし、なんだったらそのまま採寸まで手伝ってくれた。
組み立て式の家具が届けば「俺こういうの好きなんだよね」と、その組み立てにも付き合ってくれたな。

うん、もうめちゃくちゃだ。
デロデロに甘えている。
ここ最近の出来事を振り返っただけなのに、だいぶ、いやかなり私が阿部さんにしがみついている。

戒めのために何度でも繰り返すが、ここへ引っ越す際に「絶対阿部さんのお世話にはなりませんから！」的なことを言って警戒と威嚇をしていたのは他でもない、私だ。