ガラスの靴を振りかざして3_緑 (ページ11)

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引っ越して日は浅いが、新居での生活もそれなりに形になってきたと思う。

あたふたしていた家の扉の開錠も、今では改札を抜けるようなスピードでピッとスムーズに解除出来るようになったし、洗濯物は外に干さずに浴室乾燥機を使うとか、インターホンの使い方とか、阿部さんに聞かされていた住人同士のエレベーターの乗り方だとか、そういうマンション独自のルールにも少しずつ慣れてきた。

そうそう、ルールといえば。
物騒な世の中になってしまったせいか、最近では越してきてもわざわざお隣さんに「今日から引っ越してきました〜」と挨拶をしないのが一般的らしい。
それを聞かされた時は驚きと、都会の希薄な人間関係になんとも言えない寂しさを覚えた。

ただそうは言っても、いつか廊下で誰かと鉢合わせた時にそれこそ気まずくならないのかな？なんて頭の隅で考えていると、阿部さんはそれを見透かしたように「女性の一人暮らしは特に気をつけなきゃだめだよ。それに何かあったら俺がいるでしょ」と真面目な顔で忠告してくる。
笑顔の圧に押され、頷くしかなかった。
なので隣人はおろか、同じフロアの住人すら私はいまだに知らないままだ。

渡辺さんとの会話で、私には『都会で働くOLが住んでるような小洒落た部屋で、丁寧な生活してそう』なイメージあると言われたことがあったが、ここはまさにそんな生活を送るにはぴったりの場所だった。

効率重視な性格なので、一つの作業に時間を掛ける「丁寧な暮らし」自体は難しいものの、小洒落た部屋という部分に関しては、自分でも頑張ったと言えるくらい力を入れた。

家具の色味をメンバー随一のセンスの持ち主である向井さんに相談したり、配置は阿部さんの家を参考にさせてもらったおかげで、ダイニングキッチンは暖かな印象のあるウッド調、寝室はアースカラーを基調にしたモノトーンと、統一感のあるコーディネートでまとまっている。

つい二日前には、殺風景なベランダが寂しく感じたので、簡単に取り外しができるウッドパネルを床に敷き詰め、そこに身長の半分ほどの背丈の観葉植物の植木鉢を二つほど置いたばかりだ。

ベランダの手すりに防犯対策のための目隠しがしてあるので眺望を楽しむことは出来ないが、ベランダのDIYにハマっているというラウールさん曰く「ちょっとした気分転換にソファとテーブルあるだけでも全然違うよ！」とアドバイスも貰ったので、それらも近いうちに配置出来ればと目下計画中である。