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阿部さんはメンバーの中でも随一の倹約家だと聞いていたし、実際に私物をとても大切に使い込んでいる印象がある。
これは自惚れでもなんでもなく、だからこそ「どうして私なんかにそこまでしてくれるんですか」と聞きたかった。
そうしたところで、こちらが理解できる回答が返ってくるとは思えないけど。
彼の考えていることは、一緒に過ごしてきたメンバーですら未だに読めない部分が多いのだと、佐久間さんが嘆いていたことがある。
だったら出会って三ヶ月足らずの私に分かるはずもない。
だけどこれに関してはきちんと断らなければ、この先対等で良好なご近所さん同士の関係は築けない気がする。
「ね、いいよね？」と、女である私よりも可愛らしく、コテンと首を傾げて微笑む阿部さんに絆され、つい頷きそうになりながらも、もげるんじゃないかと思うくらい豪快に首を振って拒絶した。
「だめ！」
「なんで！」
「悪いっす、そんなことしてもらうの！」
「そうでもしないと俺の気が収まらないの！」
そんな気はなくていい！と言い返すよりも早く、阿部さんの頬がぷくっと膨らんだ。
「あざとい」という一言では括りきれない彼の言動には、もはや絶句レベルである。
なんなんだ、この阿部亮平という生き物は。
「たかだかマネージャーの引越し祝いに、そんな上等なものをくれるとかヤバいですって！」
高いですし、と聞こえるか聞こえないかの声で口籠る私に、
「そうでもしなきゃAさん、あのベッド買わないでしょ」
と唇を不満そうに尖らせた阿部さんの、遠慮のない追撃にあえなく撃沈する。
そんなことないです、買います。と即答することができなかった正直者の自分が悔しい。
軍配はまたしても阿部さんに上がった。
唇を噛んで俯く私に「ほら見たことか」と距離を詰めてくる彼を弱々しく睨みつけたが、動じるどころか気にする気配もない。
阿部さんがこちらに目線を合わせるように背中を丸めた。
私は体を少し後ろに引いて身構える。
「あの日、Aさんは俺と外村さんだけに色々と話してくれたでしょ。だからその分、ちゃんと甘えて欲しいの」
「…ちゃんと甘えるって何ですか…」
私には分からなかった。
とりあえず情けない顔を見られたくなかったから視線をそらしたのに、こんな時ばっかり阿部さんはしつこく追いかけてくる。
「Aさん、」
逃げないで、と阿部さんは私に言った。
逃げてません、と返した声に張りはなく、自分でも驚くほど掠れていた。
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作者名：泥濘 | 作成日時：2023年11月4日 17時
