グットアフタヌーン・トウキョウ【うらさか】

. ページ20

大学に入って初めての試験は、第二外国語の他に3つだけだった。


文系はレポートが多いと聞いていたが、それは本当のようだった。


「ため息ばっかりつくなよな」


うらたさんは図書館のテーブルに缶コーヒーをことりと置きながら言った。


「あれ？うらたさん」


私は経済学のプリントから顔をあげた。


「それ飲んで、ちょっとはしゃんとしろよ」


うらたさんは私の隣に腰を下ろすと、反対側の席に自分の荷物を置いた。


「すみません、ありがとうございます」


「で、なにやってんの？」


「経済学なんですけど、この計算式がとけなくって」


試験も佳境に入り、いよいよ明日は経済学のテストがあるのだ。


私は、興味があるというだけで取ってしまった経済学の授業は、高校でやらなかった数学の範囲がぽんぽん出てくるものだから、ついて行くのがやっとという感じだった。


「ああ、ここは、こうじゃね？」


うらたさんは、私のプリントを覗き込むと、いとも簡単に計算式を解いてしまった。


さすが理系といったところだろうか。


「うらたさん、すごい」


「ま、これくらいなら余裕だろ。普通に微分すればいいんだから」


うらたさんはそう言いながら、カバンからノートパソコンを取りだした。


「うらたさんは、レポートですか？」


「そう。実験レポート」


慣れた手つきでパソコンを起動し、カタカタと文字を打ち込んでいく。


「分かんないとこあったら、言って。そのくらいなら、教えてやるよ」


「いいんですか？」


めずらしくうらたさんが優しいと意外に思って彼を見やると、うらたさんはにやりと笑って、


「その代わり、また飯食いに行くから」


と言った。



.

.→←きみのとなり

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す