グットイブニング・トウキョウ【あほの坂田】 (ページ14)

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坂田くんとテスト前に図書館で一緒に勉強するようになってから、1年が経っていた。

彼は文系科目はてんでダメだったが、理系科目は得意だったらしい。

互いの得意分野が違ったので、教え合うことで毎回補講を回避することに成功していた。

2年生になって、私は文系、坂田くんは理系とクラスは別れてしまったが、それでも毎朝同じバスに乗り、テスト前は図書館で勉強するのは一緒だった。

だからだろうか、不思議と彼と距離が出来てしまったという気はしなかった。

あと1週間で、夏休みだった。

外からは、うるさいほどのセミの鳴き声が聞こえてくる。

ふた月ばかり前にはこいのぼりがはためいていた家々の屋根に、いまはゆらゆらと陽炎が立ち上っている。

私達は冷房の効いた図書館でテスト勉強に勤しんでいた。

坂田くんに目を向けると、物理のテキストを開いたまま、腕を枕にして突っ伏していた。

昨日は新しく発売したゲームをしていたのだとバスで楽しそうに話していたので、きっと夜更かしでもしたのだろうと考える。

この1年、彼と私の関係は変わらなかった。

毎朝同じバスに乗り、図書館でテスト勉強をするだけの関係。

同じクラスにいた時でさえ、教室でなんて話したことはない。

それはきっと、友達とも呼べないだろうし、ましてや恋人でもない。

今となってはクラスメイトという枠組みからも外れてしまった。

私たちの関係を人に説明するとなると、ひどく難しいように思える。

規則正しい寝息を立てる赤い頭を見つめながら、彼はどう思っているんだろう、と思った。

お母さんに誰と一緒に勉強するの、と聞かれて‘友達’と答えているが、ちょっと騙しているような気すらしてしまう。

世間体を気にした枠組みに無理やりカテゴライズするならば、確かに‘友達’もしくは‘知り合い’‘顔なじみ’このあたりに分類されるのかもしれない。

私と坂田くんの、この奇妙な関係はどこまで続くのだろうか。

高校卒業するまでずっと続くような気もするし、いつの間にかなくなってしまうのかもしれない。